奥野氏が長期厳選投資を行う際、投資先の選定において重視している考え方が大きく三つある。それは、(1)付加価値の高い産業、(2)圧倒的な競争優位性、(3)長期的な潮流であり、海外企業調査を通じて、これらの基準を満たす「構造的に強靱な企業」に投資するとの方針を持っている。

 ここで言う「付加価値の高い」とはつまるところ、世のため人のために役立っているのか、社会に必要とされているのか。「圧倒的な競争優位性」とは、相手に戦いたくないと思わせるほどの強さがあるのかどうか。「長期的な潮流」とは、人口動態のような不可逆的な変化の流れに乗っているかどうかを指しているという。

 そして、これら三つが重なり合う存在を見つければ、もはや売り買いする必要はなく、長期的にそうした会社のオーナーになるというのが、基本的な運用コンセプトだ。

「参入障壁」がキーワード
ハイテク株の評価には濃淡も

 こうした観点から具体的な投資先企業を考える際、奥野氏が強調するのが「参入障壁」の重要性だ。これが、GAFAやテスラに投資を行わない理由に直結するキーワードでもある。

 このハイテク5社を巡り、参入障壁の観点から最も否定的なのがSNS(交流サイト)大手のフェイスブックとEV(電気自動車)メーカーのテスラだ。「SNSはクラブハウスの台頭やmixi(ミクシィ)の凋落を見ても分かるように、続々と新たな存在が現れる分野で、参入障壁はほとんどない」(奥野氏)。テスラに関しても、「EVはエンジン車より造るのが簡単で、参入障壁は低い」(同)というわけだ。

 検索エンジンの圧倒的なプラットフォーマーである、グーグル(上場しているのは持ち株会社のアルファベット)はどうか。「確かに検索エンジンに関しては高い参入障壁を築いている。ただし、同社は他にも自動運転をはじめとしたさまざまな分野に手を出しており、そこについては参入障壁がないものも多い」(同)。

 さらに、長期投資の成功者であるウォーレン・バフェット氏の流儀が「分からないものには投資しない」であることから、奥野氏自身もやや業態が複雑化しているグーグルには投資しようと考えてはこなかったという。

 一方で、投資してこなかった大手ハイテク企業の評価にも濃淡はある。前向きな見方を示すのが、アップルとアマゾン・ドット・コム、GAFAと並び称されるテクノロジー界の巨艦、マイクロソフトだ。

 何しろアップル株については、敬服するバフェット氏が20年末時点で、同氏率いる投資会社バークシャー・ハサウェイの投資ポートフォリオ(資産配分)の4割超を占める存在となっている。

 それにもかかわらず、奥野氏が運用するファンドで投資しない理由については、「スマートフォンは競争環境が非常に激しい分野で、分析する中で分からない部分もあった」と話す。その上で「基本的にアップルはいい会社だと思うし、バフェット氏が同社に投資を始めたタイミング(16年)はバリュエーション(投資尺度)が割安でさすがだった」と、その先見性を認める。

 アマゾンに関しては、参入障壁を築いているものの、利益創出よりも消費者へのサービスを優先する企業姿勢を持ち、合理的に企業価値を見積もることが困難との考え方だ。マイクロソフトも優良企業だとするものの、振り返ればほんの数年前までは、クラウド化に乗り遅れて「失われた10年」などと呼ばれる厳しい時代を経験した。そんな変化が激しい業界であるだけに、奥野氏は長期厳選投資の観点からは運用対象として組み入れていないという。

「もうかる源泉が模倣できない」ことが大事
利益を出し続ける優良企業に厳選投資

 それでは、地球上「最強」とも目されてきたGAFAをもしのぐ投資先企業の魅力とは、何だと考えているのか。

 共通する前提条件は、先に述べた3条件に当てはまる企業であること。中でも、「おおぶね」で運用している3月末時点の組み入れ銘柄27のうち、7.2%と最も投資比率が高いのが、ウォルト・ディズニー・カンパニー。言わずと知れた本家ディズニーランドの運営母体だ。

 同社の強みについて、奥野氏は以前からのテーマパーク運営のみならず、動画配信サービスが新たな強みになってきていると評価。動画配信の同業大手のネットフリックスが創業から20年以上かけて2億人の有料会員を獲得したのに対し、ディズニーはわずか16カ月という短期間で1億人を突破したスピード感を挙げ、「90年以上にわたって人気を誇ってきたキャラクターで、活用するのに追加コストも必要なく参入障壁は極めて高い」と指摘する。

 要は「もうかる源泉が何か、というのが模倣できないことが大事。もともと番組制作会社がもうからないのに、(ネットフリックスのように)ネット化したからもうかるわけではない。一方でミッキーマウスやスター・ウォーズは誰にも模倣できない。その有無こそが、長期的にその会社のオーナーとなるかの分かれ目」(奥野氏)だという。

 確かに日本人にも知名度の高い他の組み入れ上位企業を見ても、ビザやコストコ・ホールセール、ナイキなど、長らく安定した収益と圧倒的なシェアを誇り、高い参入障壁を築く面々が並んでいることが分かる。20年、30年単位の長期投資を考える奥野氏にとっては、一見勢いのあるハイテク産業のような移り変わりの激しい分野ではなく、持続的に利益を出し続ける真の優良企業に厳選投資した方が得策だと考えている、ということだ。

 こうした観点から投資先を考えていくと、自然と米国に魅力的な企業が多いことに行き着くという。奥野氏は「世界のGDP(国内総生産)の4分の1が米国で、人口が増えており、(ほぼ世界共通言語の)英語が話せ、大きな母国市場がある。ここできちんと参入障壁が築ければ、世界中に広がるのは必至。米国で強い企業は、そんな下駄を履いていることになる」と話す。

 このように、米国はGAFAやテスラのようなハイテク企業だけでなく、他にも多士済々の優良企業の宝庫だ。実際、ハイテク株は多くの投資家からの期待度が高い故、バリュエーション的に割高な銘柄も少なくない。

 S&P500種株価指数に連動するインデックス型の投信に資金を投じるのも一手だが、指数を構成する米国の代表的な500社の中にも、当然ながら株価の強弱にはギャップがある。利益を生み続ける企業に投資すれば長期的に一段と大きなリターンも期待できるだけに、ハイテク株とはまた違った視点から、米国の個別株投資に挑んでみてはいかがだろうか。

Key Visual by Noriyo Shinoda, Graphic by Kaoru Kurata