1億総リストラ#1Photo:photolibrary

コロナ禍で赤字に陥った企業は早期・希望退職を募りながら、雇用調整助成金で息をついている。その助成金の支給は間もなく終了。盛り返せずに危機が深まれば、整理解雇という最後の手段を取らざるを得ない。特集『1億総リストラ』(全14回)の#1では、「整理解雇危険企業」リストを独自に作成した。(ダイヤモンド編集部副編集長 臼井真粧美)

ANAは337億円受給
雇用を守った雇調金が終わる

 航空大手のANAは約5年前、総合職を長期にかけてどんどん削減していく計画に乗り出した。スリムな組織を目指したのである。

 しかしその後、事業規模の拡大を推し進めていく中で、削減計画は脇に置かれた。グループの従業員数はどんどん増えていった。

 そのタイミングで新型コロナウイルス感染拡大の直撃を食らった。ANAグループの持ち株会社であるANAホールディングス(HD)の業績は見る見る悪化し、2021年3月期は5100億円という巨額の最終赤字を見込む。

 収入が激減する中で流出するキャッシュを「止血」するべく、コスト圧縮が急がれた。人件費は固定費の約3割を占め、実に重い。ANAHDは人件費削減策を次々に打ち出した。

 希望退職募集、休業・休暇制度、外部企業への出向、新卒採用の停止、役員報酬はもちろん管理職や一般社員の賃金カット……。さまざまな手を尽くしながらも、外資系航空会社で繰り広げられているような派手な「人切り」は行っていない。

 雇用を守ってこられたのは「雇用調整助成金(雇調金)」の存在が大きかった。

 政府は、企業が従業員に支払う休業手当を補助する雇調金を新型コロナウイルス感染拡大に伴う特例措置でばらまいてきた。コロナ禍の影響で多くの企業で経営が厳しくなったにもかかわらず失業者の増加が抑制されてきたのは、雇調金があったからだ。

 ANAHDが受給した雇調金は337億円にも上る。上場企業の中で最も多く受け取り、乗り切ってきたのである。

 雇調金をばらまく特例措置は原則4月末で終わり、一部企業限定で6月末まで延長される。コロナ禍が長引き特例措置の延長を繰り返したため雇調金支給総額は膨れ上がり、財源は底を突いている。

 ここから先、企業は雇調金なしで人件費を賄えるよう、人員削減や業績回復を成さねばならない。果たせずに経営危機が深刻化すれば、最後の手段として会社側の事情で一方的に雇用を終了させる整理解雇が従業員を襲う。