「ソンタック」発見後の気づき

 Aさんは2 on 2の実施後、「ソンタック」が爆発しないよう、「ソンタック」の生態について掘り下げてみました。

 その結果、「ソンタック」はチームリーダーとのコミュニケーション時によく現れることがわかりました。

 その背景には、Aさんがチームメンバーに対して「これくらいはわかってほしい」という期待があり、Aさん自身の仕事の進め方の前提、すなわちナラティヴによって、問題が慢性化していることに気づきました。

 Aさんは様々な場面で忖度を溜め込んでいるのですが、チームメンバーたちにはわからないのです。なんとなく忖度を溜め込んでいるとチームメンバーたちが思っても、実体がよくわからないので、どう関わったらいいのかよくわかりません。ただ、2 on 2により自分も問題の一部であり、自分なりにできることが具体的にあることがわかったのです。

素直に自分の感情を交えて
話すように変わった

 そこで、Aさんは、公の場での話し方を大きく変えてみました。

 以前は部門の方針を伝えるミーティングでは、戦略と戦術を伝達するだけでした。

 しかし、2 on 2を経て、「方針の背景」を発信することを意識的に行ったのです。

 自分が今どんな想いでいるのか、どんなことを考えているのかを自分の感情を素直に交えて話すようにしました。これまでは、自分の想いや感情を伝えることは不要と思っていたわけですが、それは「ソンタック」のせいだと気づいたのです。

 チームメンバーとの個別のコミュニケーションでも、相手が行動を起こすために必要な情報は何かを探り、本人の行動を引き出すことを意識するようになりました。

 こう書くと簡単そうに思えますが、Aさんの見えている風景はまったく違っている点に注目していただけたらと思います。

 2 on 2を通じて、部下もいろいろなことを考えたり、感じたりしていることが具体的にわかったことは大きな収穫でした。

 何をやるかを伝達するだけでなく、個々のメンバーとともに考えるマネジャーとしての役割が新たに発見されたのです。

 本書では、実際に2 on 2をやってみるとどんな効果があるのか、期待できる成果と課題についてお伝えしています。ぜひご活用いただけたらと思います。

【追伸】「だから、この本。」についても、この本について率直に向き合いました。ぜひご覧いただけたらと思います。

【「だから、この本。」大好評連載】

<第1回> あなたの会社を蝕む6つの「慢性疾患」と「依存症」の知られざる関係
<第2回>【チームの雰囲気をもっと悪くするには?】という“反転の問い”がチームの雰囲気をよくする理由
<第3回> イキイキ・やりがいの対話から変革とイノベーションの対話へ!シビアな時代に生き残る「対話」の力とは?
<第4回> 小さな事件を重大事故にしないできるリーダーの新しい習慣【2 on 2】の対話法

<第5回> 三流リーダーは組織【を】変える、一流リーダーは組織【が】変わる

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体験者が初告白!「私にとって 2 on 2 は、言語化できないモヤモヤの正体が形になって現れた衝撃の体験でした。」

宇田川元一(うだがわ・もとかず)
経営学者/埼玉大学 経済経営系大学院 准教授
1977年、東京都生まれ。2000年、立教大学経済学部卒業。2002年、同大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。2006年、明治大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得。
2006年、早稲田大学アジア太平洋研究センター助手。2007年、長崎大学経済学部講師・准教授。2010年、西南学院大学商学部准教授を経て、2016年より埼玉大学大学院人文社会科学研究科(通称:経済経営系大学院)准教授。
専門は、経営戦略論、組織論。ナラティヴ・アプローチに基づいた企業変革、イノベーション推進、戦略開発の研究を行っている。また、大手製造業やスタートアップ企業のイノベーション推進や企業変革のアドバイザーとして、その実践を支援している。著書に『他者と働く――「わかりあえなさ」から始める組織論』(NewsPicksパブリッシング)がある。
日本の人事部「HRアワード2020」書籍部門最優秀賞受賞(『他者と働く』)。2007年度経営学史学会賞(論文部門奨励賞)受賞。