新型コロナウイルスの治療薬の開発が活発化している。オミクロン株の登場で、年明け早々再び感染拡大の兆しが見え「第6波」の到来が現実味を増しているが、効果的な薬剤が登場すれば医療機関への負荷は軽減し、今度こそ社会は正常化するのか。特集『総予測2022』の本稿では、パンデミック当初からコロナ治療に当たる呼吸器疾患の第一人者に展望を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 野村聖子)
2009年の新型インフルエンザと同様
コロナ終息には簡便な経口薬が不可欠
――コロナ禍が始まってから2年近く経過しましたが、依然として社会を元に戻す見通しは立っていません。数カ月で終息した2009年の新型インフルエンザと今回のコロナでは、何が異なるのでしょうか。
まず、社会へのインパクトという意味では、09年の新型インフルエンザは感染の中心地が関西で、首都圏ではあまり流行しなかったことが大きいでしょう。
医療機関への負荷という観点では、コロナは検査で陽性になってから重症化するまでの時間が、インフルエンザに比べて非常に長い、というのが大きな要因です。
コロナ感染症は新型インフルエンザに比べて、重症化率や致死率が極端に高いわけではなく、ほとんどが軽症で治ります。しかし、インフルエンザは症状が出てから検査することがほとんどで、重症化するか否かもある程度分かる一方、コロナは5日~1週間前後経過しなければ予後が分からないことが多く、最終的に軽症で終わる患者でもその間は医療機関で経過を見なければならないのです。
今は無症状でも1週間後にならないと重症化するか否か分からないとなれば、患者さんも退院したがらないですよね。そのためコロナの場合、軽症者でも1週間程度は入院させざるを得ず、それゆえに病床の回転率が悪くなり、医療機関への負荷が大きくなってしまうのです。
地域差はあれ、軽症や中等症Iの患者さんは宿泊や自宅療養に切り替わってきているので、病院への負荷は軽減されています。しかし、社会を元に戻すためには入院加療ではなく、軽症者はクリニックなどの外来で早期に治療介入できるような診療体制にしていかなければならないでしょう。
――当初コロナ禍終了の切り札とされたワクチンはほぼ行き渡りましたが、まだ社会の正常化には足りないのでしょうか。
新型インフルエンザが早期に終息、つまり季節性インフルエンザと同様の対応でよいと厚生労働省が方向を転換したのは、治療薬、特に診療所でも簡便に処方できる経口薬のタミフル、吸入薬のリレンザの存在があったからです。
インフルエンザに対するタミフルやリレンザといった抗ウイルス薬が重症化や死亡を抑制するためには、結局発症後早期(48時間以内)の投与と限られるのですが「どの医療機関でも外来で扱える」、この点が感染症をどう扱うか、政治的判断をするのに非常に重要でした。
現在、薬事承認されているコロナの治療薬の中で、効果が高いのはロナプリーブ、ゼビュディといった「抗体療法」ですが、これらは点滴、もしくは皮下注射なので、使える医療機関がどうしても限られますから、やはり外来で広く診られるようにするためには、軽症者に対する経口薬の承認が必須となるでしょう。