児童精神医療のメインは重度自閉症だった
だからASDと結び付けがちになる

 ASDには、抗不安薬や抗うつ剤を対症療法として使うことはありますが、対人関係の障害などの中核症状に有効な薬はありません。

 当院の発達障害外来には、他の病院でASDと診断された方も多く来られますが、およそ3分の2は他の疾患です。その中にはADHDも多く見られますが、ASDと診断されていたということは、これまで必要な薬物治療は受けてこなかったことを意味します。

 確かにADHDとASDには、横断面では、ミスや忘れ物が多い、衝動的で対人関係がうまくいかないなどの共通点があり(下図参照)、見分けるのは難しいのですが、実は“大家”といわれる医師でも、ADHDをASDと誤診してしまうケースが多々存在しています。

 なぜ権威も間違うのか。これは、児童精神医療の分野が伝統として重度の自閉症をメインに扱ってきた歴史的背景から、診断にバイアスが生じ、発達障害に関連する症状があれば真っ先にASDを考える傾向があるためです。

 特に、対人関係に問題が見られるとASDと結び付けられがちなのですが、学校で孤立して不登校になり、一見ASDのように見える子供が、ADHDの薬物治療を行うと見違えるように復活して、進学校や名門大学に合格するケースも複数見てきました。

 だからこそ薬が効かない症例の多い精神科領域で、ADHDをしっかり診断して適切な投薬に導くことが極めて重要なのです。

 現状の小児に対するガイドライン(『注意欠如・多動症-ADHD-の診断・治療ガイドライン第4版』)の記載も問題です。