メインフレームだけではない
レガシーシステムの存在

 これまではメインフレームの話を見てきたが、実はレガシーシステムはこれだけではない。

「一見オープンで新しく見えるものでも、システムの柔軟性がなく負債・レガシーになるものもある」とノークリサーチの岩上由高シニアアナリストは指摘する。代表的な例が、数多くの大手企業で採用され、圧倒的なシェアを誇るERPシステムであるSAPだ。

 SAPは上記のDXレポートの期限と同じ25年に現行バージョンのサポートが終了する。SAPは、いわば「一枚板」で組まれているシステムで、その内容を変えることもできず、新バージョンに組み替えるには、かなりのコストをかけてユーザー企業がITシステム全体の刷新を行わなければならない。

 すでに日本国内と併せて海外支社などにも共通で普及し、まともな代替企業もないために、使用をやめることもできないという代物なのだ。現在、刷新案件が大量に動いているが、「SAPにロックインされている顧客が刷新に困っているのを見越し、コンサルがどっぷり入り込んでボロもうけしている」(IT業界関係者)のが実態のようだ。

 では、ここまで見てきたようなレガシーシステムあるいは、“実質レガシーシステム”から脱却し、今後も抱えないためにはどうすればいいのか。「ユーザーがその中身と特性を理解し、必要とあらば中身を柔軟に自律的に変えられるシステムにする」ことである。ハードやソフトの新旧や、オンプレミス(自社保有)かクラウドかの区別は問われない。

 結局肝心なのは、メインフレームのマイグレーションや、ITシステムの刷新という行為そのものではない。自分たちの業務を新しく変え、それにふさわしいITシステムに変えることである。

 新しいオープンシステムやクラウド上に、30年前から使い続けている業務システムを高額なコストを費やして移管するのは、「100億円をかけて江戸システムを江戸ダッシュシステムにするような意味のないことで、本来的なDXが指す『産業革命』にはなり得ない」と亦賀アナリストは指摘する。

 経産省のDXレポートで喧伝されていた「マイグレーション」は、DXを行うための前提条件の一つではあるが、絶対条件ではない。実際の調査では、企業がDXを阻害する要因として認識している事象はさまざまで、マイグレーションができないからDXができないという回答は少ない。

 富士通のメインフレーム撤退を契機に、盛り上がるマイグレーション需要。富士通ユーザーやメインフレームユーザーのみならず、自社のシステムが本当の意味で「レガシー」でないかどうかを、早急に検証する必要があるだろう。

Key Visual by Noriyo Shinoda, Graphic by Kaoru Kurata