セブンの死角 伊藤忠&三菱商事の逆襲#10Photo:SOPA Images/gettyimages

コンビニ業界はインフレや人手不足で激変期を迎えている。セブン-イレブンは成功モデルを継承し、出店の再加速と食品の開発力で荒波を乗り切ろうとしている。横綱相撲を続けるセブンに対し、新しい土俵をつくって戦いを挑むのがファミリーマートとローソンだ。それぞれ親会社の伊藤忠商事と三菱商事の力を借りて、新機軸を打ち出し、“下克上”を狙う。特集『セブンの死角 伊藤忠&三菱商事の逆襲』(全15回)の#10では、セブンが抱える、王者であるがゆえの衰退リスクに迫る。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)

横綱相撲のままではファミマや
ローソンの奇策に対応できず

 出店が頭打ちになって成長が鈍化したコンビニ業界を、インフレや人手不足といった大波が襲っている。

 波をもろにかぶれば、コスト上昇で減益になるばかりではない。複合的な要因で、コンビニが他業態に市場を奪われかねないのだ。その要因とは、(1)値上げが消費者の許容範囲を超える(2)人手不足で大量生産・長距離輸送の商品が不利になる(3)急成長を前提とした加盟店オーナーやメーカーとの関係が悪化する──などのリスクだ。

 そうしたリスクに晒されている大手コンビニ3社で、唯一これまでの勝ちパターンを繰り返そうとしているのが王者セブン-イレブン・ジャパン(SEJ)だ。

 同社の永松文彦社長はダイヤモンド編集部の取材で、2022年度75店だった対前年度比の増加店舗数を、「150~200店に増やしていく」と明言した。

 勝ちパターンを踏襲するのは出店戦略だけではない。食品の開発に注力し、総菜やプライベートブランド(PB)の魅力で客を集める戦略も継続する。

 実は、21年度にSEJを揺るがす大事件があった。成長のけん引役だったPB、セブンプレミアムの売上高が初めて減少に転じたのだ。

「食」を戦略の軸に据えるSEJがこのような事態を放置するはずはない。「不人気商品の改廃を進め、22年度後半からPBの売上高を上昇に転じさせた」(青山誠一商品戦略本部長)のだ。まさにSEJならではの横綱相撲といえる。

 しかし、である。往年の戦略だけで激変期を切り抜けるのは難しい。むしろ、王者だからこそ戦い方を変えられず、時代の変化への対応が遅れ、負のスパイラルに陥ることもあり得る。

 次ページではセブンの急成長を支えてきた三つの強みが、弱みに変わりかねない実態とその要因を明らかにする。