関電高浜原発Photo:PIXTA

岸田文雄内閣は今年2月に「GX実現に向けた基本方針」を閣議決定した。だが、メディアが「GX実現に向けた基本方針の概要」を基に報道することで、「GX実現に向けた基本方針」は、「原子力の重点化」を最重要課題の一つとしているかのような印象が広く世間に流布している。長期連載『エネルギー動乱』の本稿では、基本方針のポイントに加え、方針に盛り込まれた原子力の位置付けを解説する。(国際大学副学長・大学院国際経営学研究科教授 橘川武郎)

原子力重点化は最重要課題の一つ?
印象が世間で流布した理由

 岸田文雄内閣は、2023年2月10日に「GX実現に向けた基本方針」(以下「基本方針」)を閣議決定した。GXとは、グリーン・トランスフォーメーションの略称であり、「化石燃料をできるだけ使わず、クリーンなエネルギーを活用していくための変革やその実現に向けた活動のこと」(経済産業省『METI Journal ONLINE』、1月17日)である。

 その後、この「基本方針」の主要部分を盛り込んだ「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」(GX推進法)が、第211回国会で、5月12日に可決・成立した。また、同国会では、「基本方針」に基づき既設原子炉の運転期間を延長することを可能にする「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」(GX脱炭素電源法)も、5月31日に可決・成立した。

「基本方針」について説明するために、経済産業省は、ホームページ上に3つの資料を載せている。1つは「基本方針」の本文であり、残りの2つは1ページだけの「GX実現に向けた基本方針の概要」(「概要」)と26ページにわたる「GX実現に向けた基本方針 参考資料」(「参考資料」)である。

 これらのうち「基本方針」の本文は、永田町文書や霞が関文書にありがちな取り組むべき課題を列挙した総花的なものであり、そこから課題間の優先順位を読み取ることは容易ではない。そこで多くのマスメディアは、短い「概要」の方に注目し、その記述をうのみにしたまま、「基本方針」の内容として報道している。

「概要」は第一の柱として「エネルギー安定供給の確保を大前提としたGXの取組」を掲げ、(1)徹底した省エネの推進、(2)再エネの主力電源化、(3)原子力の活用、(4)その他の重要事項、の4つの課題を挙げている。

 この「概要」に基づく報道によって、「基本方針」は、「原子力の重点化」を最重要課題の一つとしているかのような印象が、広く世間に流布している。はたして、それは、本当だろうか。