しかし、その伊東体制における拡大戦略のツケもあり、N-BOXの好調ぶりとは裏腹に、ホンダの業績は長らく低迷している。足元でも、日本国内販売は4年連続減少(登録車だけでは6年連続減少)となり、ホンダにとっては痛し痒しの状況だ。

 ホンダは、かつて“米国一本足打法”と言われたほど米国依存度が高かったが、近年では米国と共に中国が収益源となってきている。一方で、母国の日本市場を再度固めるのも優先課題としている。日本市場で年間100万台販売を目指し、これに肉薄した頃もあったのは確かだが、現状では60万台にも届かず、スズキとダイハツの後塵を拝する国内4位の座に甘んじている。

「トヨタ一強を許しているのは、ホンダの責任だ」と指摘する厳しい声もあるほどだ。

 N-BOXの発表会で「国内年間70万台の安定販売に結びつけたい」と述べた日本国内営業責任者の声は本音であろう。

 ホンダは三部敏宏社長が“脱ガソリン”を宣言し、40年に世界の新車販売を全てEVとFCEVにする目標を打ち出し、日本国内も30年までに全ての新車販売においてハイブリッド車を含む電動車とする計画を公表している。

 だが、今回の3代目N-BOXは従来のエンジン車のみの設定を踏襲している。むしろ、最安モデルを廃止するなど実質的に3%の値上げをすることで、収益性を高める戦略を打ってきた。

 ホンダは9月末に、31年3月期に目標とするEV事業の利益率を初めて公表している。四輪車と二輪車を含むEVの売上高営業利益率で31年3月期に5%以上、30年代に10%以上を目指すとしている。だが、ホンダの23年3月期の営業利益率を見ると、二輪車事業は16.8%と高収益だが、四輪車事業の営業損益は赤字で、全体では4.6%にとどまっている。

 現状、四輪車事業の収益性向上はホンダの最重要課題だ。電動化への移行でよりコスト高となることが見えている中、安定的収益体質への転換は急務であり、今回の3代目N-BOXも、電動化へのジレンマもあろうが、まずはホンダ最後の“エンジン軽自動車”として展開し、「国内70万台」のけん引役を果たすのと同時に収益性を確保するというのが狙いだろう。

 ただし、ホンダの軽自動車EV化の第1弾はすでに公表されており、来年24年春にも軽商用車N-VANのEVが投入される予定となっている。価格は、実質100万円台となる見込みだ。

 軽乗用車のEVの発売は25年以降となるが、ホンダの脱エンジン車戦略の中で日本国内販売における軽自動車依存が続くのか、あるいは登録車も含めたバランスの取れた安定販売・安定収益に結びつくのか、今後の成り行きを注目したい。

(佃モビリティ総研代表・NEXT MOBILITY主筆 佃 義夫)