低迷する国家試験合格率、大学入試倍率、そして高い留年率……。ここ十数年の私立歯学部の惨状に、大学の責任は重大だとして、これらの実績が厳しい大学に対し、国はかねて歯学部定員の削減を要請している。特集『決定版 後悔しない「歯科治療」』(全23回)の#11では、今回、国試合格率、入試倍率、留年率に財務指標を加え、独自の「私立歯学部淘汰危険度ランキング」を作成した。(ダイヤモンド編集部 竹田孝洋、野村聖子)
歯科医の質の低下に歯止めかけるために
歯学部定員削減を検討
歯科医院の数はコンビニエンスストアの数より多い、といわれて久しい。
そもそもなぜ歯科医が過剰になったのか。
1960年代後半から70年代前半にかけて、歯科医師不足が問題になった。当時の田中角栄内閣の「1県1医大構想」と共鳴する形で、一気に歯学部・歯科大学は4倍近くも新設されることとなった。
人口10万人に対して歯科医師数を50人にすることが目標となった。50人を超えるのに10年を要することもなく、結果的には過剰な新設計画となってしまった。その結果、競合激化で歯科医になっても見合う収入が得られない状態になり、歯科医を目指し、歯学部や歯科大学を受験する学生が減少した。
受験生の減少は、入学する学生の学力低下を招く。私立大学の中には、入学定員を満たせない大学も目立つ。留年も増加する。国家試験の合格率も低下する。こうした事態は、歯科医師の質の低下を招く。
日本歯科医師会や文部科学省も危機感を持ち、歯学部の定員を減少させる方針を固めている。つまり、歯科医師の質を担保するために、「数」=歯学部定員を調整するということである。
文部科学省は、各歯学部教育の質を図るものとして、毎年10月にその年の「各大学歯学部の入学状況及び国家試験結果」を公表している。
幾つかの指標はあるが、歯学部教員経験者など歯学教育に詳しい関係者、歯学部予備校幹部らによると、重要なのは各歯学部の入学定員充足率、修業年限6年での国家試験合格率、6年次での留年率とされている。これらの指標が思わしくない歯学部は大学教育の質が悪いと見なされ、国から定員削減の圧力が高くなるということである。
そこで今回、歯学部を持つ私立大学を対象に、公表されている最新のデータである2021年度の「各大学歯学部の入学状況及び国家試験結果」に本誌の分析による財務指標を加えて、独自の「歯学部淘汰危険度ランキング」を作成した。
次ページから、その結果を掲載するとともに、大学が公表する財務諸表から作成した9指標のランキングを掲載し、各大学の財務を分析した。