保険調剤はもうかる感じがしない
美容に舵を切った

──調剤大手の再編が進み、一部では、町の薬局に対するM&A(合併・買収)も盛況だという話があります。

C 確かに今薬局を買おうと思うと、ものすごく高いというのは聞きますね。

A 高い安いもそれぞれ価値観や金銭感覚によると思うんですけども……。

 この間、M&Aの仲介業者からとある薬局の買収話がきたんですが、経営者の年齢が60歳前後で立地が駅前。1カ月の処方箋枚数が大体800枚、調剤技術料が150万~160万円という物件でした。 

 それで仲介手数料が1500万円、営業権など諸々込みで1500万円、合計3000万円ですって言われて。

 駅前といえどレッドオーシャンな立地だったんですね。他にも周囲に薬局が複数あるっていう状況だったので、なかなかきついなと思ったのですが、仲介業者いわく「この場所ではこの値段が相場です」と。私は結局断ったのですが、一方で世間はそういう判断をするのかなと思ったんですけど。

C 営業権はそんなに高過ぎる印象はないです。でも紹介料がすごく高い。通常の不動産だと、全体の1割っていうイメージです。そんなに持っていくんですか。

A そう言われました。

 確かに、1割とかじゃなくて、最低1000万円からとか、どんなに利益が少なくても。本当に良心的な業者だと500万円から、とかありますけど、 ちょっと業績が良いとすぐ1000万円に乗ってくる。今回の案件で1500万円というのは、少々お高過ぎる気はします。

B 開業したてでこんなことを言うのもおかしい話ですけど、保険調剤は今、そんなにもうかる感じはしない。

A 少し前、といってももう10年以上前の話になりますけど、調剤バブルといわれていた頃は、本当に場所取り、陣取りゲームだったので、お金があるなら病院の周りをとにかく押さえていけば勝てるゲームでした。今は当然、そうじゃない。

B かつては存在していたと思われる〝勝ちパターン〟みたいなものがすごく見えにくくなっているのかなとは思います。「この算定さえ取っておけば面白いほど稼げる」みたいなのがもう存在しなくなっている。

A 先ほど言ったような、門前(病院や診療所の向かいにある薬局)での勝ち筋がつぶされて、次は高齢者施設、ここ5年ぐらいは在宅調剤というセオリーがあったんですけどね。

──在宅はもう勝ちパターンではなくなっているのですか。

A 数を増やせば採算は取れると思いますけど……。月何人から黒(字)にできると思います?

B 50人かな。

C 月50人在宅で回るという手間暇を考えると、今の報酬だとそこまで積極的に取ろうとはやはり思えないです。

B 今の学生の間では「在宅はもうかる」みたいなイメージがあるみたい。私の親戚の薬学部生からも「在宅専門の薬局を志望している」と相談を受けたのですが、「今後は保険調剤だけでやっていくというのは現実的になかなか厳しいかもしれないよ」という話はしました。

 私自身も、開業にあたって美容薬剤師(美容薬剤師協会が認定する民間資格)を取得しました。ただ調剤薬局のお客さんに「奇麗になりませんか?」と言っても今の段階ではなかなか響かない。やはり美容と保険薬局のニーズってなかなか一致しないので、悪戦苦闘しているところです。

C いよいよ少子高齢化が進み社会保障費を減らしていかなければならない段階で、確かにお二人がおっしゃったように保険調剤による〝勝利の方程式〟みたいなものを見つけるのは厳しくなってはいる。でも自分は逆に手段が増えたのかなという気もしているんです。

 B先生のように美容にかじを切るのも良し、オンライン調剤に特化してみるのも良し、おのおのの強みをどう生かしていくのかを考えるのもそれはそれで面白い。

A そうですね。いろんな業態の薬局が増えるのは個人的にも大歓迎です。

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