【76】1988年
大手から中堅まで全業種が参戦
米国企業を買いまくった日本

 バブル期の日本は、円高や低金利政策、株や不動産投資であげた収益を背景に、米国企業や不動産を買いまくった。ソニーがCBSソニー、コロンビア・ピクチャーズを、松下電器産業(現パナソニック)がユニバーサル・スタジオ(MCA)を、ブリヂストンがファイアストンを、青木建設がウェスティン・ホテルを、三菱地所がロックフェラー・センターを買収するなど、米国のシンボル的な企業や不動産が次々と日本企業の手に渡った。

 1988年6月4日号には「日本企業が買いまくったアメリカ企業 初集計M&A物件上位100社」というリポートが掲載され、88年を“M&A元年”と表現している。

 かつて、海外M&A(企業の合併・買収)は電機、化学、金融、食品など数業種に限定されていたが、ここ2年間の買収はほぼ全業種にわたり、大手企業だけでなく中堅企業も増えていて、しかも規模が大型化していると分析する。そして、米国企業側も「日本に売りたい」と願っているのだという。

1988年6月4日号「日本企業が買いまくったアメリカ企業 初集計M&A物件上位100社」1988年6月4日号「日本企業が買いまくったアメリカ企業 初集計M&A物件上位100社」
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『買収される側のアメリカ企業、いわば売り手からは 「交渉の相手は日本企業に絞っている」、「どうせなら日本企業に買ってほしい」という声が多く出ている。
 その理由の1つは、 日本企業によるM&Aは友好的に進められるケースがほとんどだからである。
(中略)
 日本企業がM&A相手に選ばれるいちばんの原因は「やはり、高く買ってくれるから……」(米国投資銀行)という点である。 海外M&Aに関しては、一部を除けば日本企業は経験の浅い企業ばかりで、交渉の進め方や仲介業者・アドバイザーの使い方も手慣れていない。
「日本企業の場合、“買ったら成功” という意識があるようだ。経営トップやプロジェクトチームにしても交渉が決裂するのを恐れている」、「日本企業は買いたいとなったら必死で買いたい、となる。その意欲はいいが、それがときには常識以上の買収金額になってしまうこともある」と外国銀行や証券会社は指摘する。
 その点で話題を呼んだのがブリヂストンのファイアストン社買収劇である。
 TOB合戦のなかでライバルの伊ピレリ社が1株当たり58ドルでオファーを出したのに対抗してブリヂストンが提示したのは一気に22ドルも高い1株当たり80ドル……。「58ドルに対してなぜ一気に80ドルなのか、わけがわからない」、「あまりにも唐突」という声が多いのである。ウォールストリート・ジャーナル紙には「80ドルと聞いて思わずベッドから転げ落ちるほど驚いた」という投資業者の声も載っていたほどだ』

 バブル崩壊後、多くの日本企業は高値で買収した資産の減損処理に苦しんだ。例示されているブリヂストンも、買収直後にファイアストン製タイヤのリコール問題に見舞われ、企業文化や市場環境などの違いでも苦労し、「史上最大の買収失敗」と言われたこともあった。しかし、同社が2008年にタイヤ事業で世界シェア1位となったのは、当時のファイアストン買収があってこそでもある。M&Aの成否は決して短期的な視点だけでは判断できない。