金相場が最高値更新、地政学リスクと米利下げ観測を背景に「2つの買い主体」の支えで上昇基調継続かPhoto:PIXTA

金の現物相場は、3~4月に急騰して2400ドル台まで上値を伸ばし、その後、上昇ペースは鈍ったものの、5月、7月に史上最高値を更新した。足元も8月20日に1トロイオンス当たり2531.60ドルを付け、最高値を更新している。今後も二つの買い主体に支えられて上昇基調が続きそうだ。(三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部主任研究員 芥田知至)

イラン大統領墜落死を受けて
5月に高値を付ける

 まず、3~4月に急騰した後、騰勢が鈍りつつも、上値追いとなった5月以降の金相場の動向を振り返る。

 5月1日は、FOMC(米連邦公開市場委員会)での政策金利の据え置き決定が発表され、その後の会見でパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長が「次の政策変更が利上げになる可能性は低い」と発言した。それがハト派的と受け止められ、米市場金利やドル相場が低下し、金は買い戻しが優勢となった。

 9日は、米新規失業保険申請件数が2週連続で悪化し、米利下げ観測がやや強まり、金相場を押し上げた。13日は、4月の米CPI(米消費者物価指数)の発表を15日に控える中、ポジション調整の売りに押された。

 しかし、15日は、4月の米CPIの伸びが市場予想通りに鈍化したことで米利下げ観測が強まり、金は上昇した。17日は、4月の中国鉱工業生産が市場予想を上回ったことや、中国政府が不動産支援策を発表したことで、中国の金需要が増加するとの期待から金相場の上昇幅がやや大きくなった。

 20日は、アジア時間の早朝にイランのライシ大統領が搭乗するヘリコプターの墜落が報じられてさまざまな臆測を呼ぶ中、リスク回避の金買いが強まり、金は2449.89ドルの史上最高値を付けた。その後、墜落は事故とみられることが報道されると、地政学リスク懸念は後退して、この日の高値からは値を下げた。

 その後、金相場は上げ渋った。22日は、4月30日~5月1日のFOMCの議事要旨が、FOMC直後のパウエルFRB議長の会見よりもタカ派的と見なされ、金の売り材料になった。

 23日は、S&Pグローバルが発表した5月の製造業PMI(購買担当者景況指数)が市場予想を上回ったことや、米新規失業保険申請件数が減少したことを受けて、米早期利下げ観測が後退し、金相場を圧迫した。

 6月以降、米国の利下げ観測と地政学リスクの高まりが交錯する中、金相場は上昇していく。その軌跡を検証するとともに先行きを分析する。