【78】1990年
都市部の地価下落は“朗報”?
専門家の見立ても割れていた
日経平均株価は1989年12月29日の大納会で3万8915円を付けたが、それをピークに90年は下落に転じる。株安と同時に、為替も円安に転じた。90年4月21日号では「逆資産効果――ショックと朗報 バブル破裂のあと…」と題した緊急特集を組んでいる。
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すでに始まった株安、円安に加え、土地安も加わった「トリプル安」に進むのか。また、その期間はどの程度に及ぶのか――。特集では、第一線で活躍するエコノミスト11人の予測を一覧で載せているが、ダブル安についてすら「一過性」「中期的」「長期的・構造的」と、見方はバラバラに割れている。
また、トリプル安がさらに進行するにせよ、しないにせよ、40カ月を超えた平成景気に与える影響はどうかとの問いには、11人中「それほど大きくない」が4人、「ない」が1人、「若干」が1人。対して「大きい」が2人、「かなり大きい」が3人といった具合で、こちらも楽観論と悲観論で完全に二分されているのだ。
楽観論の中には「この程度の金融面での調整(トリプル安)は、強すぎる景気基調(人手不足、インフレ圧力、需給逼迫〈ひっぱく〉)にとってむしろ“お湿り効果(冷却効果)”になる公算が大」という声もある。特集タイトルにこそ「バブル破裂」とうたっているが、日本経済の先行きにさほど大きな危機感は示していない。
というのも、同じくタイトルにある「ショックと朗報」の“朗報”の中身とは、首都圏の不動産に下落の兆しが見え始め、バブル期の地価狂乱で家を持つことをあきらめていたサラリーマンにも家を買うチャンスが回ってくる、というものなのだ。
90年前半時点では、地価下落はまだ起こっていない。むしろ株式市場の低迷で、投資マネーが土地に流入して地価上昇に拍車をかけるのではないかという論調すらあった。もっとも記事では、政府が不動産投資への規制を強めているため、首都圏の地価は“小幅じり安状態”になると考えられると結んでいる。
実際の動きとしては、この特集の直前である90年3月27日に、当時の大蔵省から金融機関に通達された「不動産融資総量規制」が予想以上の強烈な効果を発揮する。それまでも段階的に進められてきた金利引き上げなどの金融引き締め政策とともに、不動産融資を実質的に制限することで、地価は急速に下落に転じていった。そして90年の後半から本格的に、日本経済はバブル崩壊の坂道を転げ落ちていく。