【79】1991年
証券会社の損失補填問題
横行していた“握り、飛ばし”

 1991年7月29日、日本経済新聞のスクープによって、野村証券、大和証券、日興証券、山一証券など大手証券会社が、株式など有価証券の売買で生じた顧客の損失を穴埋めする損失補填(ほてん)を行っていたことが明らかになった。報道を受け、証券会社は自ら損失補填先リストを公表せざるをえなくなった。

 事件発覚直後の91年8月10日号「企業を蝕む 不正と犯罪」特集では、公表されたリストを基に補填のメカニズムについて考察を加えている。

1991年8月10号「企業を蝕む 不正と犯罪」1991年8月10号「企業を蝕む 不正と犯罪」
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『4大証券、準大手の損失補填リストには、多くの名も知れない企業が数多く登場する。それは、なぜか。これは今後、大きな問題となる危険を含んでいる。業界用語で、“飛ばし”と呼ばれる損失補填である可能性があるからだ。
(中略)
 ある4大証券の首脳は、「もし“飛ばし”によって、大企業への損失補填を行っていることが事実で、それが発覚したら、確実に証券会社のトップは辞任しなければならないほど、批判が起こるだろう」と言う。
 今回の損失補填は、90年初の株安が背景の中心だったが、その後の株式の低落は比較にならないほど大きい。大蔵省は特別監査に入っているが、91年3月期の損失補填規模は、さらに大きくなるともいわれている。ある大手都銀の営業本部長は、「90年3月期の3倍はあるのではないか」と不気味な予測をしてみせる』

 損失補填が発生した前提として、まず1980年代後半に横行していた「握り」という違法行為がある。大口顧客に対し、一任運用契約において一定の利回りを保証することだ。株価が右肩上がりのうちはいいが、株価が下落し始めると運用している株式は多額の含み損を抱えた“爆弾”と化す。そこで新たに編み出された違法行為が「飛ばし」だった。顧客企業の決算時に株式の含み損が表面化しないよう、決算前に他企業へ一時的に移して、決算後に元に戻すという行為である。

 記事では、この飛ばしが業界全体に横行していたのではないかと疑念を呈している。

 88年9月から90年3月までの間に証券界全体が行った損失補填額は1728億円に達した。本誌は1年後の91年3月期はさらに増えると予測しているが、その後の日本証券業協会による調査で91年3月期分として公表されたのは435億円であり、これで本当にうみを出し切ったのかは疑問が残るところだった。

 というのも6年後の97年に、山一証券が自主廃業するという衝撃的な事態に陥る。飛ばしによる損失の先送りによって巨額に膨らんだ簿外債務を隠蔽(いんぺい)しきれなかったことが破綻の原因だった。