中国の知的財産権保護問題に対する制裁として高関税を賦課しただけではない。対象産品の選び方は、「中国製造2025」という、先端技術産業を重視した製造業発展計画の狙い撃ちである。

 中国が補助金などで支援し、国家主導で先端産業の競争力を強化しようとしていることにもくさびを打ち込もうという思惑なのだろう。

 中国の知的財産権保護は明らかに不十分だし、国家資本主義的に産業の育成を図ることにも大きな問題がある。したがってこれに立ち向かわなければならないという意図は理解できる。

 だが同時に懸念すべきは、米国通商法301条による米国の一方的な判断に基づく制裁的な関税の実施は、WTOの貿易ルールに反することだ。

 一方的な制裁が報復を呼び、さらに報復への対抗措置がとられる中で、国際貿易ルールが破綻し、世界経済に著しいネガティブな影響を与えることが懸念される。先の国家安全保障を理由とした米国の鉄鋼・アルミへの25%関税実施にしても、WTOルールとの整合性ははなはだ疑わしい。

 トランプ大統領が主張する、膨大な貿易赤字が米国の雇用を奪っているというロジックも説得力に欠けるものだ。

 自由貿易によって資源の最適配分が行われ、その結果、競争力の弱い産業が衰えても、より競争力のある産業に資本や労働力がシフトし、産業構造が高度化される。

 ましてや今の米国は、完全雇用に近い低い失業率だから、制裁関税の実施で中国から輸入する産品の価格が騰貴したとしても、直ちに代替の産品を米国内で生産する能力はないだろう。

 また、中国産品の多くには米国や日本を含め世界各国の部品が組み込まれている。米国からの輸出品に比べれば、中国自身が生産するコンテンツの割合は圧倒的に低い。結局、制裁関税実施の影響は中国以外の国も受けることになる。

 世界経済の相互依存関係が深まっていることを考えると、米国の今回の措置は経済合理性に反するものだ。

日米貿易摩擦の教訓
輸出自主規制で米国の雇用増えず

 1980年代後半、米国の貿易赤字の50%近くを占めていた日本は、貿易不均衡問題で米国の制裁の脅しにさらされ続けた。筆者は、日米摩擦が激化した1985年からの2年間、外務省で日米経済関係の担当課長だった。

 だが当時は、多くの場合、実際に制裁措置がとられる前に、精力的な日米交渉の結果、合意が作られ、実際の制裁関税などが実施されることにはならなかった。この時、26の協定が日米で合意された。多くは日本の市場を開放するものだったが、中には日本からの輸出の自主規制の合意もあった。

 日本は安全保障を米国に依存していることから、米国の制裁に対し対抗措置をとるという発想にはならなかったからだ。だが日本の輸出自主規制で、実際に米国からの輸入増や米国の雇用拡大につながったかどうかは、はなはだ疑問だ。