売れ筋や仕入れ情報を
知り得る楽天への疑念

 楽天が直販を強化すればするほど、昔ながらの楽天市場の出店者とは利益相反が生じる。しかも問題はそれだけではない。

 楽天市場の出店者は、楽天に対して取扱商品をJANコード(日本の統一商品コード)で報告することが求められており、楽天は特定の商品や売れ筋商品などの情報を、リアルタイムで把握できる立場にある。

 さらに、楽天市場の出店審査では主要仕入れ先を報告することが必須となっており、楽天は店舗の仕入れ先も把握できる立場である。出店審査の時だけでなく「出店後も楽天から仕入れ先を聞かれたことがある」と話す出店者もいる。

 楽天市場の出店者でつくる任意団体「楽天ユニオン」が、出店者を対象にアンケートを実施したところ、「自社で取り扱う商品が楽天の直営店で売られるようになっていた経験がある」との回答が多く寄せられた。この中で目立ったのが「楽天は、楽天市場内の売れ筋の商品データを活用していると思う」との見方を示している店舗の回答だ。

 このほか「仕入れ先が限られている当社の売れ筋商品が突然楽天24で売られ始めた」「売れ筋商品の仕入れ先を楽天から聞かれて、その後に直営店が販売していた」という声も出ていた。

 店舗経営において仕入れ先は機微情報だ。楽天が報告を強制することでその情報を握っているなら、出店者にとっては気が気でない。楽天の直営店が仕入れ先にアクセスすれば、その店舗は「中抜き」されて利益を吸い取られることになる。

 実際に、ある店舗は、商品を仕入れている取引メーカーから「楽天が取引開始を申し出てきた」と知らされた経験があるという。

出店者データの利用は
「透明化」できるか

 もっとも、楽天にとって直販事業の強化は、プラットフォームの魅力を高めてアマゾンに対抗するために欠かせない戦略である。

 楽天は「日用品やファッション、家電などユーザーニーズが特に高い領域で直販店舗を運営して、プラットフォームの品ぞろえを充実させることは、楽天市場の利用者の増加、また1人当たりの訪問頻度の向上によって、楽天市場全体の流通も成長することにつながる」(広報)という見解を示す。

 一方で、古くから楽天市場に出店する店舗は「モール運営者の楽天がやるべきことではない」(出店者)と反発しているが、楽天の行為自体が独占禁止法など法規制で禁止されているわけではない。

 両者の溝は埋まらないが、最大の焦点になるのは「出店者の取引データ」の利用だ。

 独禁法に詳しい川濱昇・京都大学教授は「モールの運営者が出店者の売れ筋情報にアクセスして自社に有利に販売することや、出店者に不利益を与えることがあれば独禁法で問題になることはあり得る」と指摘している。さらには「仕入れ先という機微情報を聞き出して、それを自社販売に使うということが本当にあるなら、議論の余地もなく真っ黒な問題だ」と厳しい見方を示す。

 19年10月には、公正取引委員会がプラットフォーマーの取引慣行について実態調査をしたところ、ある運営事業者がオンラインモールの売れ筋商品を後追いで仕入れて販売し始めた事例が見つかった。報告書では、取引データを利用した運営事業者の直接販売について「競合する利用事業者(出店者)や消費者との取引を不当に妨害すれば独禁法上問題になり得る」と指摘している。

 11月には、EU(欧州連合)の欧州委員会が米アマゾンに対して、出店者の販売データで売れ筋商品を把握して、自社商品の販売を調整していたとして、競争法違反の疑いで異議告知書を出している。

 もちろんこうした問題を把握している楽天は、「出店者の取引データを利用することはない」(広報)との立場で一貫している。楽天によると、直営店担当者が出店者の情報にアクセスしないことは「ルール化」しており、データの不正利用を回避する仕組みを内部で整えていると強調している。

 もっとも、そのルールや不正利用の回避策は開示されておらず、出店者の疑念が晴れることはない。

 21年春にも施行となるプラットフォーム取引透明化法では、運営者と出店者の契約条件と共に、データの利用範囲についても、楽天をはじめとするプラットフォーム運営者に開示が求められている。

 さらに、プラットフォームの運営者が利用事業者(出店者)からクレームを受けるなど対立する状態にあるならば、それを報告して、解決策の提示も求められる方向でルール整備が進んでいる。楽天と出店者との間で取引データ利用を巡って対立が続くなら、楽天は不正利用を防止するルールの内容やその実効性について説明が求められることになりそうだ。

 アマゾンに対抗するため直販事業を巨大化させる楽天は、それを脅威と見る出店者との内部対立をどのように解消するか。透明化法の施行に当たり、大きな課題を背負うことになった。

Key Visual by Noriyo Shinoda, Graphic by Kaoru Kurata