5類相当にすれば重症者が増える
殺傷力の高い変異株拡大のリスクも

 5類相当に変更すれば陽性者の隔離ができなくなるので感染は拡大し、患者数が増える。患者数が増えれば人工呼吸器など高度な治療が必要な重症者もそれに比例して増えるので、ICU(集中治療室)など、重症者用ベッドが今よりさらに不足し、医療は逼迫するというのだ。

「現在、医療が逼迫している主な原因は重症者用の病床の不足。日本は病床数の絶対数は多いが、コロナ重症者を診られるICUが少ない。重症者を減らさないと医療崩壊は回避できない」(東京都内急性期病院に勤務する呼吸器外科のS医師)。

 よく報じられる「軽症者や無症状者が病床を占めている」という問題についてはどうだろうか。5類相当にすると、先程の表によれば入院隔離措置が要らなくなるので病床不足が解消するのではないだろうか。

 しかし、これは患者の年齢や入院判断に地域差があるため一概には評価できないようだ。すでに無症状者、軽症患者は自宅療養やホテル療養となっている地域も少なくなく、その場合、病床自体の逼迫には影響していないからである。「今入院しているのは治療が必要な患者しかいないので、5類相当にしても状況は変わらない」(前出のS医師)。

 さらに前出の西塚医師も、地域の公衆衛生を担う保健所長としては指定感染症の解除には慎重な立場だ。「コロナの変異株が出てきている。5類相当にして感染経路や濃厚接触者の追跡ができなくなれば、変異株の感染が把握できなくなる」という。

 さらに、今後感染力が高くなったり、重症化しやすくなったりするリスクも考えなければならない。「今、指定感染症を解除するのは賛成できない」(西塚医師)。

 コロナが5類相当になれば、医師に応召義務が発生することでコロナ患者を受け入れる医療機関は増えるかもしれない。しかし、それだけで医療崩壊が解消され、元の生活に戻れるという単純な問題ではなさそうだ。

 その他にも、コロナを巡る“現状の指定感染症維持”派の主張と“5類に落とせ”派の主張には下図のようなものがある。

 基本的に「現状の指定感染症の扱いを維持すべき」派は「コロナ感染症は怖い病気」、5類相当派は「コロナは経済や生活を犠牲にするほどのウイルスではない」という認識に立っており、主張の前提がそもそも異なる。両者の議論がかみ合うわけはない。

来年まで指定感染症維持は既定路線だが
そのままでもインフルエンザ並みの扱いになる希望はある

 結局のところ、政権がどのような判断をするかに懸かっているのである。それにより、双方の“勝ち負け”が決まる。しかし、その点についても残念ながら、そもそも「今の政権が、5類相当に変更するなどといった大きな政治決断をできるわけがない」という声もある。