わが国経済の長期停滞の要因の一つは、バブル崩壊後、企業の新陳代謝が悪かったことだろう。資産価格の急落や不良債権処理の遅れなどによって、企業の事業環境は厳しさを増した。その状況下、「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」とでもいうべき「過度な守り」の企業経営者は多かっただろう。あるいは、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称されたバブル崩壊前の成功体験を引きずり、発想の転換が難しいケースもあっただろう。

 長く身に染みついた生き方を変えることは容易ではない。慣れ親しんだことを続ける方が安心できる。そうした心の働きは「心の慣性の法則」といえる。過度なリスク回避や心の慣性の法則などに影響された結果、わが国では、本来重要な「イノベーションの発揮」と「変化(競争)への対応」に乏しい企業が増えた。コロナ禍によって社会全体で関心が高まった「押印文化」はその一端だろう。

 その一方で、米中ではIT先端企業の成長が加速し、先端分野へ生産要素が再配分された。また、新興国企業の成長によってデジタル家電の生産は、わが国企業が強みを誇った垂直統合の体制に基づく「すり合わせ型」から、国際分業による「ユニット組み立て型」へシフトした。高付加価値なヒット商品の花形である米アップル「iPhone」の登場に加え、家電の機能向上と価格低下が進み、わが国企業の製品はガラパゴス化した。

 それでもわが国企業が収益を得られたのは、国内に約1億2000万人が暮らし、それなりの需要があるからだ。ただし、わが国の人口が減少する中、先行きは楽観できない。