(1)国営農業の育成

 想定される悪い未来を前提に考えると、要するに米に代表される「儲からないけれども食糧安保に重要な農業」を誰かが大規模にやっていかなければならないのです。

 皮肉抜きに、利益が出ない事業を大規模に行うのは、この国の得意技です。

 農業の国営化はこれまで悪手だとされてきました。

 農業は基本的に海外の農作物から国内の農家を守る必要があります。圧倒的にコストが有利な海外の大規模農業の生産物に対抗する手段として、どの国も所得補償と価格保証を農業政策の軸に置いて、外圧と戦ってきた歴史があります。

 ただ、この従来政策には問題があります。所得補償と価格保証をあてにして「農業をやろう」という人材がこれまでは出てきていた。それに限界が来て、人材が農業に流入しなくなっているという現状に対する対策を考えなければならないというのが新しい現実です。

 そこで米に限定して、他の農業と切り離す形で、国営農業政策を海外に認めてもらうような考え方はありえないでしょうか。

 国が農業をやってもコスト的に海外のコメには勝てない。それでも、コスト度外視で政府が赤字でもコメを作って自給率の不足分を補う。小売価格は国内の農家が農業を続けようと考える水準に設定する。それが成立できたら未来の前提は変わります。

 分割民営化の流れと逆行する施策ではありますが、かつての三公社五現業と比肩する一大事業体として、国営農業を本格的に立ち上げる以外に、自給率を上げる方法はないといったん考えて話を進めたいと思います。