このビジョンでは、世界の電動車リーダーの地位を再び獲得するという野望の実現が大きな狙いの一つとなっている。「技術の日産」を自負する同社としては、電動化と知能化で世界をリードしたいところ。そうした強い日産への再興は内田社長の役割でもあり、今期24年度からは、30年までをつなぐ新しい中期経営計画もスタートさせた。
トヨタも、21年に当時の豊田章男社長が「2030年BEV戦略」を大々的に発表した。
それまでトヨタは、BEVとFCEV(燃料電池車)合わせて30年に200万台の計画を公表していたが、改めて「30年にBEVの世界販売で年間350万台を目指す」と上方修正を宣言。「トヨタはBEVの取り組みが遅れている」との世評に反発し、あえてBEV拡大戦略を発表したのだ。
それでも、当時の豊田社長は「(CNの実現に向けて)一つの選択肢だけで世界の全ての人を幸せにすることは難しい。だからこそ、世界中のお客さまにできるだけ多くの選択肢を準備したい」と、EV以外の電動化にも力を入れるトヨタマルチパスウェイ(全方位)戦略への持論を強調した。
全方位戦略は投資余力のあるトヨタならではだが、決してBEVを軽視しているわけではない。30年に世界販売350万台というのは、トヨタ世界販売全体の3分の1を占めるものであり、かつレクサスブランドでは30年に北米・欧州・中国で100%BEVを先行して実現させる計画だ。実にトヨタらしい世界戦略といえるだろう。
もちろん、大手だけでなく、それ以外のメーカーでも電動化戦略は欠かせない。スバル、マツダ、スズキなどトヨタグループ各社もトヨタと連動して30年に向けて生き残り戦略を進めており、今後も各社のCN対応・SDV対応への投資計画更新など、その動向が注目される。
30年が当面の照準とされる中で、直近では世界最大の中国市場においてEV供給過剰や値崩れで日本車メーカーの苦戦感が強まっている。その意味では、足元での中国市場戦略は30年に向けての対中国ブランドの“前哨戦”であり、戦いはすで始まっているといえよう。
(佃モビリティ総研代表・NEXT MOBILITY主筆 佃 義夫)