中国市場からの「完全」撤退は難しい
だからこそ企業間連携や合従連衡が進む

 ただ、日本企業が中国から完全に徹底することは難しい。中国の新車販売市場は世界最大だ。基礎資材、建機や工作機械、デジタル家電、医療・医薬品、小売り、飲食、宿泊などの市場も大きい。中国の需要にアクセスできなくなると、業績に影響を及ぼすリスクは高いだろう。

 独フォルクスワーゲンは、人権問題に対応しつつ、中国でEV関連の設備投資を増やす方針を示した。ドイツ国内で人員整理を断行し、費用を捻出しようとしているほどだ。中国のEV需要を取り込むことを優先し、他の分野でリストラを進める戦略を明確にした。

 日本企業にとっても、優先順位に基づいた事業戦略策定の重要性が高まっている。参考になるのは、在庫管理の「ABC分析」だ。収益を左右する影響度を高・中・低に分けて製品や事業を整理し、重要性の高いものからA・B・Cと順に事業ポートフォリオを管理する手法である。

 収益貢献度の低い中国の事業(中国向けの製品)は、リストラの対象にする。一方、比較優位性がある分野では、中長期の時間軸で中国への事業展開を目指す。主な分野としては脱炭素や半導体に関連する素材、製造装置などが挙げられる。

 それらの分野では、米国の対中規制を順守し、中国企業との合弁を進め、収益の獲得を目指す。中国の合弁事業が収益を生めば、経営陣は獲得した資金をより先端の分野、あるいは米国やアジア新興国など成長期待の高い市場に再配分することになるはずだ。

 難しいのは、そうした改革を自社だけで進め、成長につなげられるか見極めることだ。現在の中国政府の方針が続く限り、中国国有企業などの過剰生産能力は増加する可能性が高い。技術と価格の両面でグローバル市場の競争はますます激化するだろう。

 そのため、日本企業にとって今後有効な中国対策として、他社との連携や経営統合の検討が進むと予想される。まずは自動車業界で起きたように、各業界の主要メーカーを中心にさまざまな合従連衡が進むケースが増えるだろう。