日産自動車は昨年12月に役員人事を発表したが、刷新感に欠ける内容だった。ホンダが求める自立的な再建を果たすためにもさらなる経営体制の見直しが求められそうだ。特集『日産 消滅危機』の#17では、役員人事の問題点を明らかにするとともに、日産役員が受け取る高額報酬の実額を公開する。(ダイヤモンド編集部 宮井貴之)
CFOは事実上の更迭
社内から適性を疑問視する声
日産自動車は昨年12月、役員人事の変更を発表した。経営再建のためには経営陣の刷新が期待されたが、ふたを開けてみれば小幅な「担当替え」にとどまった。
その中で、注目された人事を挙げるとすれば、スティーブン・マー最高財務責任者(CFO)の中国事業への担当替えだ。
マー氏は1996年に北米日産の会計・財務担当として入社した後、常務執行役員などを経て、2019年からCFOとして内田誠社長体制を支えてきた。1月以降も執行役にとどまるが、CFOから中国事業担当への配置換えは事実上の更迭とみるのが自然だ。
マー氏を巡っては、24年9月中間決算で日産の経営不振が明らかになる以前から、CFOとしての適性を疑問視する声が社内で上がっていた。
本来、CFOの果たすべき役割は、会計や財務をバックグラウンドに持ち、経営者の意思決定に必要な「提案・材料」を与えることだ。だが、日産関係者は「マー氏は経営者の参謀的役割を果たすCFOではなく、いまだに昭和の金庫番をやっている」と手厳しい。設備投資や開発投資を伴う稟議案件が多数、マー氏のところで止まってしまうケースもあったという。
パワーハラスメントの疑惑もあった。ある日産社員は「社内では、マー氏のパワハラ体質は有名。上司には忠実なものの、同僚や部下と上手にやっていく能力に欠けており、実際に(部下の)部長クラスのメンタルがやられていた」と眉をひそめる。
そうした過去の経緯から、マー氏がCFOのままでは、痛みを伴う構造改革をやり切り、リスクを取って競争力ある分野に投資を大胆に傾けるシナリオを描けないと内田社長が判断したようだ。代わりにCFOに就いたのが証券会社勤務のキャリアを持つジェレミー・パパン氏だ。直近まで北米事業のトップを務めていた。
CFOは事実上の更迭となったが、誰も辞任をしない日産の役員人事は問題だらけだった。次ページでは、配置転換に留まった役員人事の問題点を明らかにするとともに、批判が集まる日産幹部の高額報酬の実額を公開する。