中国にとっては
権力闘争の引き金となり得る
一方で、中国にとっては、米中貿易戦争は中国共産党の支配構造の要と密接に関連する。
共産党にとって、統治の正当性を維持するのは経済成長だ。高成長のもとで国民が所得が増えていくという実感を持つ限り、共産党統治は崩れないと考えられているのだろう。
ただ、経済成長率は年々低下しており、2019年第1四半期の実績は6.4%と、政府が掲げる2019年6~6.5%の枠内ではあるが、国有企業、不良債権などを巡る問題は山積している。内需拡大策も限界が見えつつある。
習近平主席にとっては、貿易交渉は両刃の剣だ。
対米貿易戦争が長期化し対米だけでなく貿易全般が縮小していくことによるマイナスの影響は何としても避けたいという思いは強いだろう。従って経済成長に大きな悪影響を与えかねない貿易戦争にはできるだけ早く終止符を打ちたいというのが本音だろう。
中国の行動を長年、観察してきた筆者から見れば、常に「目には目を」を標榜する中国がここまで低姿勢で米国との貿易交渉に当たってきているのはむしろ驚きだ。
しかし米国の圧力に屈して譲歩を重ねていくにも拘らず、決着がつけられない事態は、国内の反米意識に火をつける一方で、統治が不安定化し、習近平主席の権力基盤を脅かすような権力闘争につながりかねない。