当時、私はワシントンの日本大使館に勤務していたが、世界最強の国である米国がイランによって辱めを受けているという報道が、事件が解決するまでの444日間、テレビニュースのトップを連日飾っていた。

 この事件以降、米国の反イラン感情は議会を含め米国内に幅広く浸透している。このような反イラン感情の上に、トランプ政権の包括的な戦略が構築されていると見るべきだろう。

 イランはイスラム宗教指導者が支配し、イスラムによる統治体制の普及を目指しハマスやヒズボラといったテロ組織を支援しているとして、イランの体制自体が脅威であるとする。

 こうした認識は中東の親米国、サウジアラビアやイスラエルなどでも共有されている。

 特にスンニ派のサウジアラビアは、イエメンなどでシーア派イランとの軍事衝突を繰り返しているほか、イスラエルと共にイランの核合意に強く反対してきた。

 トランプ政権は「アメリカ・ファースト」を掲げ、米国が中東に大量の米軍を駐留して多大のコストをかけることは嫌う。

 このため直接的な軍事介入に代え、中東の「同盟国」であるイスラエル、サウジアラビア、エジプトの軍事力拡大に手を貸している。

 サウジとは10年で3500億ドルに上る武器売却で合意しており、イスラエルには毎年30億ドルを超える軍事支援、エジプトに対して毎年10億ドルを超える軍事・経済援助を行っていると伝えられる。

 さらに、「イスラム国(IS)」駆逐後の中東情勢も大きく変化した。

 従来のアラブ・イスラエル対立の図式は大きく形を変え、シリア内戦でシーア派であるアサド体制を支援するイラン、アサド体制に反対するスンニ派のサウジ、トルコや湾岸アラブ諸国という対立の図式が表面化した。

 これにアサド体制を守りたいロシア、アサド体制を排除したい米国という対立も背景にある。さらに反イランでイスラエルとサウジの連携も目に付くようになった。

 こうした状況を見ると、米国の対イラン強硬策は容易に方針が転換されるといったものではなさそうだ。

限定的な軍事衝突起こり得る
米イランとも国内に強硬派

 これに対し、イランも対米強硬策で応えようとしている。