外資製薬会社が開発した画期的な新薬に今春、過去最高額となる3349万円の薬価が付いた。技術が進化すればするほどに薬は高額化していくのか。薬ばかりが治療手段なのか。治療費を安くする技術革新の道はないのか。手与木功・塩野義製薬社長に聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 臼井真粧美、土本匡孝)
治療用アプリは
薬に代わる可能性がある
――ヘルスケア業界では、禁煙や生活習慣病の治療を補助するといった、病気の治療を目的としたスマートフォンアプリなどの開発が活発です。治療用アプリは服薬や食事への注意を促したりするサポート役としてだけでなく、薬に成り代わる可能性もあるんですか。例えば認知症治療では製薬各社が新しい薬を開発しようと巨額を投じ、失敗を繰り返しています。治療用アプリからのアプローチの方が新薬の開発よりも優れているんじゃないかっていう発想はあるんですか。
十分あります。うちは海外から導入したADHD(注意欠陥・多動性障害)の治療用アプリ(ビデオゲームを活用した治療)を国内向けに開発します。これによって経口剤が使われなくなる可能性は十分にあります。
――薬ではないアプローチは、製薬会社の自己否定になりませんか。
ならないですよ。ADHD患者が学校生活なり、友達との関係なりを、できる限り正常に近づけることへのトータルの費用が月1万円であったとして、その中身は飲み薬であろうと、アプリであろうといいと思います。
認知症もね、そもそも原因が分かっていませんから。生活を改善するのがいいのか、予防したり進行を遅らせたりするのにお金や資源をどこにかけた方がいいのか、どのアプローチがいいのか分からないんですよ、まだ。
認知症の新薬に期待して研究はずっと続けています。何年かたって「認知症の主たる原因はこれだ」みたいなものが出てくれば、原因物質ができないようにするための薬の開発などに資源を大きくかけたらいい。でも、今はとにかく全方位的にいろんなものに手を出し、総合力で患者の生きにくさを改善していくアプローチでいくべきではありませんかね。