Bean to Barは
日本人の美意識と親和性が高い
Bean to Barは添加物や香料などは極力加えず、カカオ豆本来の味や個性を引き立てる、いわば「引き算」のチョコレートです。
谷崎潤一郎の随筆『陰翳礼讃』に表される日本人独特の美意識と親和性が高く、繊細さときめ細かさが求められます。素材本来の味を大切にする日本食に近いと感じました。しかもカカオ豆は発酵と乾燥を行います。こうした発酵や乾燥の技術は日本のお家芸です。
カカオという素材が持つ味わいを日本の技術が引き立てる。技術の活用法をシフトし、技術と技術が掛け合わされれば新たな技が生まれる。イノベーションの連鎖が起これば、日本独自のチョコレートをつくれるかもしれない。
シーズを絞ってグローバルマーケットに接続できる仕組みやブランドをつくれば、外貨を獲得し日本経済に貢献できるかもしれません。そう考え、チョコレート業界へ飛び込みました。
素材最適なチョコづくりのために
製造工程を「リ・エンジニアリング」する
――Bean to Barの神髄は何でしょうか?
カカオは「フルーツ」です。大量生産のために素材を合わせるのではなく、カカオという素材を活かすために製法を合わせる。素材に最適なチョコレートづくりのために一連の製造工程を「リ・エンジニアリング」することです。
これまでの分業制のチョコレートづくりでは、すでになめらかになったチョコレートを加工するしか手段がありませんでした。でもBean to Barでつくるチョコレートは、カカオ豆の粒度や焙煎をコントロールすることができます。
われわれは生産者からフェアトレードでカカオを購入しています。そして最終的にどのようなチョコレートになったかを、商品の反響とともに生産者に伝えます。消費者の笑顔や感想も映像で伝えます。生産者が誇りを持てば、より良い品質のカカオをつくってくれるからです。
それだけでなく、乳製品アレルギーでこれまでチョコレートを食べられなかった人がチョコレートを味わってくれたり、購入者がクラフト(=小規模で職人的な)チョコレートの世界を楽しんでくれたりと、その人の人生がちょっとだけ豊かになる選択肢を提供できるのも仕事の楽しみです。
――新型コロナウイルスの影響はありますか?
緊急事態宣言の解除によって、徐々に店舗の売り上げは回復していますが、コロナとの共存は避けられないでしょう。われわれのような専門店は食べ比べなどの体験や口コミが大切ですから、方針を変える必要があります。まずは3月から社内体制を変えて、少しずつEC(電子商取引)を強化しています。
「食」というものはコミュニケーションが重要です。そのため、オンライン上のファンミーティングへ参加できる商品など、コミュニケーションを誘発するための商品販売も開始しました。
オンラインではどうしてもコミュニケーションにおける熱量が希薄になるため、それをどうカバーするかが課題ですね。コロナ禍を悲観していても仕方ないので、商売の前提を変えて状況に対応していかなければなりません。
Key Visual by Noriyo Shinoda