半導体を制する者がEVを制す#1Photo:Boy_Anupong/gettyimages,JIJI

半導体世界大手の台湾積体電路製造(TSMC)に続き、車載電池の世界首位、中国の寧徳時代新能源科技(CATL)を日本に誘致する――。経済安全保障を担保するために、半導体で “中国排除”のサプライチェーン(原材料・部品の供給網)が構築されようとする中、電池の分野では全く別の「新構想」が浮上している。特集『半導体を制する者がEVを制す』の#1では、米中分断の矛盾を突くかのような巨大外資誘致構想が持ち上がった裏事情に迫る。(ダイヤモンド編集部 村井令二)

日本の自動車メーカーが出資
幻に終わった「CATL日本上陸計画」

 中国寧徳時代新能源科技(CATL)の総帥、曽毓群(ロビン・ゼン)董事長の意向を受けて、その構想は2020年頃に動き出した。

 CATLが日本の自動車メーカーなどとの合弁形態により、電気自動車(EV)用向け車載電池の工場を日本に建設する計画を進めていたことがダイヤモンド編集部の取材で明らかになった。

 当時、CATLの幹部は経済産業省や自動車メーカーに打診。この交渉に実際に関わっていた関係者によると、CATLが49%を、日本の自動車メーカーらが51%を出資し、関東周辺に日中共同の電池工場を設立する計画だったという。

 だがこの構想はいったん、立ち消えになった。翌21年に就任した米バイデン大統領が半導体や電池のサプライチェーンについて「中国排除」の方針を打ち出し、それに日本政府が協調路線を取ったためだ。巨大中国資本を誘致するハードルは高くなった。

 この間、日本政府は21年末に、半導体世界大手の台湾積体電路製造(TSMC)の誘致を実現し、22年末に日米連携で、世界最先端半導体を製造するラピダスを発足させた。年内には先端半導体装置の対中輸出規制を発動する準備を進めており、半導体分野における「中国排除」のサプライチェーンを着々と構築しているところだ。

 その一方で、電池のサプライチェーンは、半導体のそれとは全く別の「課題」が浮き彫りになりつつある。そこで再浮上しているのが幻に終わった「CATL上陸構想」というわけだ。

 次ページでは、立ち消えになったCATL誘致構想が再び現実味を帯びることになった理由を解き明かす。また、3年前に水面下で協議されたCATL上陸計画の全容についても明らかにする。複数の大手自動車メーカーが資本参加するとされていたプランの詳細はどのようなものだったのか。