ソフトバンクグループが2023年3月期決算で9701億円の最終赤字を出し、2期連続で大赤字に陥ったことは大きなニュースとなった。1年前、孫正義会長兼社長は「徹底した守り」を実行すると宣言していたが、その言葉は偽りだったのか。実は、利益ではなくキャッシュ(現金)の動きを見れば、その真意が読み解けるのだ。そこで『決算書で読み解く! ニュースの裏側 2023夏』(全27回)の#15では、一緒にキャッシュの動きを追いかけてみたい。(ダイヤモンド編集部副編集長 鈴木崇久)
「徹底した守り」を宣言したのに
9701億円の最終赤字の真意とは?
孫正義会長兼社長が率いるソフトバンクグループ(SBG)が、2023年3月期決算で9701億円の最終赤字を出したことは大きなニュースとなった。前期には1兆7080億円の最終赤字を出しており、2期連続の巨額損失だ。
こんな大赤字を出してなぜ倒産しないのかと不思議に思う人がいるかもしれない。しかし「黒字倒産」が起こり得るように、損益計算書(PL)上の赤字が直接的に倒産につながるわけではない。
また、企業が「債務超過」に陥ったというニュースを聞いたことがあるかもしれない。貸借対照表(BS)上で資産より負債が多くなってしまった状態を指し、危険な財務状況ではあるが、「債務超過=倒産」というわけでもない。
本当に会社がつぶれてしまうのは資金繰りが行き詰まったとき。手元のキャッシュ(現金)が底を突き、必要な支払いに応じられなくなったときなのだ。
しかし、企業の生死に関わるこの重要なキャッシュの動きを、PLとBSでは追うことができない。その「死角」を補完してくれるのが、財務3表の残る一つ、キャッシュフロー計算書(CF)なのだ。
1.7兆円の最終赤字を出した22年3月期の決算発表会で、孫氏はプレゼンテーション資料の1枚目に、大きく「守り」とだけ書かれたスライドを用意した。そして「今取るべき行動は徹底した守り」と断言して「継続的な資金化」と「投資基準の厳格化」の二つを実行すると宣言した。キャッシュの流入を継続的に確保し、流出を抑えて守りを固めるというわけだ。
そしてその結果が、23年3月期決算のCFに表れている。CFの楽ちんな読み解き方を解説するとともに、孫氏の「守り優先」宣言の実態を解剖してみよう。実はSBGのCFには、過去10年で例を見ない異変が生じていた。