「国はもう在宅介護を
諦めたのではないか」
訪問介護を狙い撃ちにした理由として、前述した処遇改善加算に加えて厚労省が公にしているのは、他のサービスよりも訪問介護の利益率が高い点だ。確かに直近の「介護事業経営実態調査」では、訪問介護の利益率が22年度で7.8%と、全サービス平均の2.4%を大幅に上回っている。
また、今回の改定では介護職員以外の職種の待遇改善も実現する方針を打ち出しており、多職種が従事している介護老人保健施設や特別養護老人ホームの基本報酬は大幅に引き上げている。一方、訪問介護はホームヘルパーをはじめ介護職以外の職種はほとんどおらず、利益率も高い。
介護財政が厳しい昨今、めりはりある報酬設定が求められる中で、今回の改定では訪問介護に泣いてもらう選択をしたというのが、厚労省の言い分といったところである。
しかし、高齢社会において国が目指してきたのは「地域包括ケアシステム」の下、最後まで住み慣れた地域で高齢者が安心して暮らせる社会の姿だったはずだ。だからこそ、今回の訪問介護のマイナス改定は、国による在宅医療・介護への“はしご外し”の始まりだとみる業界関係者も少なくない。
居宅介護支援事業所ケアプランナーみどり(神奈川県)代表の原田保氏は、今回の改定について「国はもう在宅(介護)を諦めたのではないか」と分析する。ホームヘルパーと共に、自宅で暮らす高齢者の介護を支えるケアマネジャー(介護支援専門員)の基本報酬の改定からもその片鱗は垣間見えるという。ケアマネが担う介護予防支援・居宅介護支援の基本報酬は今回辛うじてプラス改定ではあったものの、前回の改定よりも引き上げ率は下がったからだ(本特集#4『要介護認定を受けて「ケアマネ難民」を回避する方法、現役の介護認定審査会委員が伝授!』参照)。
「25年からは団塊の世代が後期高齢者となるため、高齢者人口そのものが減少し始める。だから、現状は慢性的な人手不足でも、25年以降には供給過多に転じると国はみており、報酬改定によって人材確保を促す必要はないと考えているのだろう」(原田氏)
また3年後の27年度改定では、ケアマネが行うケアプランの作成が有料化されると予想されている。現行制度では、ケアプランの作成は全額介護保険でまかなわれて利用者負担はない。これが有料化されればサービスの利用控えが起こり、ケアマネ不足は解消されていく可能性が高い。すでに国はケアマネの需要自体を抑制していく制度設計にかじを切っており、今回の改定は高齢者が増加する想定でシステムを構築する時期は終わったというメッセージとも受け取れる。
しかし現状、ホームヘルパーもケアマネも、介護保険制度開始時に就労した層が引退の時期を迎え、空前の人手不足が続いている。長期的にみればいずれ供給過多になるといっても、今回の改定によって需要過多の状態は悪化すると原田氏は予測。しばらくは地域によって、要介護認定を受けていても在宅で介護サービスを受けるのが難しくなる所も出てくるかもしれないという。
とりわけ東京都に隣接する市町村で不足危機が高まる可能性がある。