【98】2010年
「はやぶさ」奇跡の帰還で
盛り上がる民間宇宙ビジネス
2010年は、宇宙開発が国内外で注目を集めた年だった。国内では08年8月の宇宙基本法の施行と、09年6月にまとめられた「宇宙基本計画」によって、民間企業の参入促進、宇宙技術の産業化などが掲げられていたが、「はやぶさ現象」がこうした宇宙ブームに火をつけた感がある。
2010年6月13日、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が運用する探査機「はやぶさ」が、約7年の旅を経て小惑星「イトカワ」からのサンプルを持ち帰り、地球に帰還した。小惑星からの物質を持ち帰るというのは世界で初めての快挙だった。また、「はやぶさ」のミッション成功には数々の困難を乗り越えたドラマがあり、映画化もされるなどで一般市民の関心を高めたのである。
はやぶさの帰還直前の2010年6月12日号「2010年宇宙ビジネスの旅」特集では、はやふ゛さの7年間にわたる「軌跡と奇跡」とともに、宇宙ビジネスの盛り上がりを伝えている。
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正確にいえばはやぶさ自体は大気圏で燃え尽き、小惑星のサンプルが入ったカプセルがオーストラリアのウーメラ砂漠に帰ってくる。
今、はやぶさには全国で多くの「ファン」が誕生、ファン集会の開催、インターネット上で応援サイトや応援動画が複数立ち上がるなど、従来の天文愛好家の枠を超えて関心が寄せられ、13日に向けカウントダウンがなされている。
各地の科学館を中心に上映されているはやぶさの軌跡を記録した短編映画にも5万人以上の観客が動員された。多くの衛星を打ち上げてきた宇宙航空研究開発機構(JAXA)も「こんな盛り上がりは初めて」と驚きを隠さない。
なぜ、人びとははやぶさに引きつけられるのか。
詳細は後述するが、トラブル続きで満身創痍となりながらも、壮大なミッションを成し遂げる姿、そしてエンジンの故障など「もうダメだ」と思われたトラブルに遭遇すると、そのたびに「こんなこともあるかと思って」と技術者たちが用意していた予備機能が作動して、奇跡的な回復を遂げた”ドラマ性”にほかならない。つまり、科学的成果とそれを得るまでの障害克服の過程が、現在進行形の「プロジェクトX」のごとく感動を与えているのだ』
はやぶさは、プロジェクトの主体こそJAXAだが、大手メーカーから町工場まで100社以上の民間企業が参加している。特集では町工場から大学発ベンチャー企業まで、多様な宇宙関連企業が登場する。宇宙開発技術の担い手が民間に移っていることを実感させられる内容だ。
一方、米国でも10年2月、オバマ大統領が、前ブッシュ政権が推進していた有人月探査計画を中止し、太陽系全域の無人探査や、そのための基礎技術の開発、地球環境観測などに力を入れる方針に転換。さらに、従来の政府主導で大規模な予算を投じて行うものから、民間企業の技術力と資金を積極的に活用する方向に大きくシフトすると発表した。その結果、米テスラ創業者のイーロン・マスクが率いるスペースXや、米アマゾン創業者のジェフ・ベゾスが設立したブルーオリジンといった民間企業に、宇宙輸送や探査を委託する動きが強まる。
さらに、10年10月には中国が「嫦娥2号」を打ち上げて月探査に成功し、インドも「チャンドラヤーン計画」という宇宙開発が進展。官民問わず、そして米国やロシア(旧ソ連)という宇宙先進国に限らず、宇宙開発が多極化する時代が始まった。