2016年2月13日号「マイナス金利導入!日銀の危険な賭け」2016年2月13日号「マイナス金利導入!日銀の危険な賭け」
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『市場にサプライズを与えることが目的だとすれば、1月2日の日本銀行による追加緩和は成功だったといえるだろう。
同日昼すぎ、日銀がマイナス金利政策を導入するとのニュースが伝わると、日経平均株価は前日終値から475円超も跳ね上がり、ドル円レートは一気に2円超も円安に動いた。
 市場関係者の間では、1月に日銀が追加緩和に踏み切るという予想はあったものの、内容は国債買い入れ額の拡大など従来の量的・質的緩和の延長線上で想定されていた。ところが日銀は、誰もがやらないだろうと思っていたマイナス金利の導入という奇策に打って出たのだ。
 1月28日の金融政策決定会合後の会見で黒田東彦日銀総裁は、「量的、質的緩和に、金利という三つ目のオプションが加わった。今後は三つの次元全てで金融緩和を進めていく」と、金融政策のオプションが増えたことを強調した。
 しかし実情は全く逆だった。日銀は、金融政策のオプションが増えるどころか、他に選択肢がなかったが故に、マイナス金利の導入という窮余の策に頼らざるを得なかったのだ。
(中略)
 黒田総裁は2月3日に都内で行った講演で、「マイナス金利付き量的・質的緩和は、これまでの中央銀行の歴史の中で、おそらく最も「強力な枠組みだ」と強調し、必要があれば今後もちゅうちょなく追加緩和を行うと述べた。
 市場では早くも4月の追加緩和観測が浮上している。今年の春闘では世界景気の減速懸念もあって、賃上げがあまり進まないとみられているからだ。加えて、リスクオフの流れが止まらず、さらなる円高が進行する可能性もある。
 追加緩和の選択肢としては、量的・質的緩和が限界にきている中でマイナス金利のさらなる引き下げが有力だが、これは実効性に乏しいばかりか、大きな副作用をもたらす懸念がある。
 マイナス金利は銀行や生命保険会社の収益を圧迫する。企業の設備投資意欲が乏しい中、マイナス金利分を貸出金利には転嫁できない。長期国債の利回り低下で生保の運用環境は厳しくなる一方だ。マイナス金利が公表されて以降、銀行・生保株は下落を続けている』

 記事にもあるように、日銀の異次元金融緩和以降、超低金利による収益悪化に銀行界は苦しんできた。そこへマイナス金利というさらなる“劇薬”が投じられることで、「弱った銀行の息の根を止めかねない」と懸念を示している。実際、銀行の収益は低下し、特に地方銀行や中小の金融機関にとっては大きな打撃となった。

 約8年続いたマイナス金利政策は、24年3月19日に解除された。コアCPI(消費者物価指数)が安定的に政府・日銀のインフレ目標である2%を超えたこと、24年の春季労使交渉で、賃上げ率が5.28%と33年ぶりの高水準になったことなどが背景にある。ただし、インフレ率の上昇は、新型コロナウイルスの世界的大流行やロシアのウクライナ侵攻による供給不安などが原因である面も大きい。必ずしもマイナス金利という劇薬が効いたとの評価を下すのは早計だろう。