
坪井賢一
超高齢社会ニッポンに久々の朗報だ。厚生労働省は8月21日、エーザイと米バイオジェンが開発したアルツハイマー病の原因物質を除去する新薬の製造販売を承認した。新薬の名称は「レカネマブ」で、年内にも流通する可能性があるという。この薬は発症早期の患者向けであり、進行したアルツハイマー病には有効ではない。となると、早期発見、早期投薬開始のために、「脳の健康状態のチェック」が重要である。認知症の最新情報を追った。

気温が体温前後まで上がり、アタマが溶けてぼうっとする日が続く9月初旬、長野県松本市へ行った。ちょうど東宝の映画「ゴジラ-1.0」の完成披露会見が開催される時期だったが、所用のため出席はあきらめて出かけたのである。松本市は、「セイジ・オザワ松本フェスティバル」が終幕を迎え、少しさびしそうな風情だった。ところが、駅の出入り口への階段を見てびっくり。新作ゴジラ映画の監督「山崎貴」展のポスターが階段にペイントされていたのだ。所用は翌日に回し、急きょ会場へ向かうことにした。

生成AIを2カ月かけて試した企画の前編『ChatGPTにオーケストラの選曲をさせたら「大ゲンカ」になった話』では、ChatGPT、BingAI(マイクロソフト)、Bard(Google)の3者とも、間違いやデタラメやうそが多く、全く参考にならなくて驚いてしまった。後編では、GDP統計に関する調査と展望を生成AIに求めた結果を報告したい。結論から言うと、クラシック音楽の選曲よりは有益な回答が出る。仕事のアシスタントとして役立つ可能性もある。ただし、問題も多いことがわかった。

ChatGPTを仕事に活用しているビジネスマンが激増しているそうで、「週刊ダイヤモンド」のChatGPT特集号は版を重ねているという。ライバルの「週刊東洋経済」も特集を2度組んでいる。どうやってうまく使いこなし、労働生産性を上げることができるか、あるいは新しいビジネスを創出することができるか、という読者の願望の表れだろう。生成AIとどんな応答を行えば目的を果たせるのか、筆者も2カ月ほど試行錯誤してみた。その結果というか、途中経過を報告する。

元経済同友会代表幹事、元経済財政諮問会議議員、そして元ウシオ電機会長の牛尾治朗氏が6月13日に92歳で亡くなった。政界と財界の結節点で活躍し、政財界の人事にも多大な影響を与えた。長年にわたり政策提言も発表してきたが、思考の軸は常に、「資本主義市場経済の原則」にあった。すなわち、自由主義的な規制緩和と行財政改革である。この偉大な財界人の思考の淵源をたどり追悼文としたい。

映画「TAR/ター」(以下、TAR)が劇場公開されて1カ月が過ぎた。好評につき上映が続いている映画館も多いようだ。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団初の女性首席指揮者を演じるのは、アカデミー賞俳優のケイト・ブランシェット。筆者も見たところ、見事な熱演で驚いた。そしてサウンドトラックのCDも購入したところ、今度はジャケットとクレジットを見てまた違う意味で驚いた。

ワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環」は4部作で、全曲上演に4夜、計15時間以上かかる超大作である。現在流通している録音・録画ソフトの大半はライブのCD、DVD、Blu-rayで、サウンドはホールの特質に左右され、客席で聴くバランスに寄せている。ライブの記録だから当然のことだ。しかし、アナログLP時代の代表作であるショルティ指揮ウィーン・フィルの「指環」全曲は、現代のライブ録音とは全く違う考え方で収録されている。この約60年前のスタジオ録音が、CDを超えるハイレゾの規格でリマスタリングされた。昨年から順次発売され、いよいよ最後の楽劇「神々の黄昏」がSACDハイブリッド盤として6月に発売される。

昨年の春、漫画『緑の歌 収集群風』(上下巻、KADOKAWA)を店頭で発見したとき、表紙画の美しさに驚き買ってしまった。LPレコード以外で“ジャケ買い”したのは初めてだ。作家は台湾出身の20代女性、高妍/Gao Yan(ガオ・イェン)という。かなり評判なようで、大きな書店では平積みになっていた。そしてこの春から月刊漫画誌で彼女の新連載「隙間」が始まった。前作に続き、青春の高揚と憂鬱の交錯を、絵画と漫画の真ん中を射抜くような画風で引きつける。

2023年1月11日に高橋幸宏、3月28日に坂本龍一が続けて亡くなり、「イエロー・マジック・オーケストラ」(YMO)の3人が演奏することは永遠になくなってしまった。しかし、レコード(記録)は永遠に残り、音楽や映像は時空を越え、いつでも視聴することができる。世界の音楽市場を1970年代末から短期間で制したYMOはその後、三者三様の音楽活動を展開しつつ、90年代以降は時折顔をそろえてライブに出演し、テレビ番組にも登場していた。二人の軌跡をたどる(敬称略)。

2023年は「現代史上の3大経済学者」、マルクス没後140年、ケインズとシュンペーターの生誕140年という節目の年に当たる。中でも経営学に大きな影響を与えたシュンペーターは、「企業家のイノベーションによる創造的破壊」こそ、経済成長(好況)の原動力だと論じた。そのシュンペーターの名前を日本で初めて活字にしたのは意外にも、経済や経営の学者ではなく、かの文豪、森鷗外(1862~1922)だったのである。

三井記念美術館が東京・日本橋にある三井本館の7階に開館したのは2005年のこと。三井ファミリー11家に伝わる美術品のコレクションが寄贈され、研究と公開に供されてきた。一方、三菱の創業家である岩崎家も書画や骨董、美術品のコレクションを有し、それらを収めた静嘉堂文庫美術館が、東京・世田谷から東京・丸の内に移転したのが2022年10月。こうして両美術館は“ご近所さん”となり、さらに23年3月3日の節句では、三井家と岩崎家の「ひな人形展」がまるで競うように開催されている。

1928年生まれのイタリアの作曲家、エンニオ・モリコーネが2020年7月に91歳で他界した。映画「モリコーネ 映画が恋した音楽家」はその5年前、16年からジュゼッペ・トルナトーレ監督が製作をスタートしていた。この映画は巨匠モリコーネの作曲とオーケストレーション(管弦楽法)のプロセスが詳細に描かれた大長編ドキュメンタリーだ。イタリアで21年に公開され、日本では22年12月から全国で上映が始まった。

今でこそ世界の歌劇場で歌って演じる日本人オペラ歌手は増えているが、100年以上前に英ロンドンでデビューし、欧米各国で活躍した女性がいた。三浦環(1884~1946)である。詳細を記録されてしかるべき伝説的な歌手だが、なかなか本格的な評伝には恵まれなかった。そこに2022年10月、最新の評伝が登場した。著者は脚本家の大石みちこ(東京芸術大学大学院客員教授)で、全て読み終えた後の充足感は深い。近年では傑出した評伝だ。

「YUMING MUSEUM」という展覧会が東京・六本木ヒルズの東京シティビュー(屋内展望台)で開催されている(会期は2月26日まで)。会場はビルの52階、海抜250mの高さで回廊の大きな窓からは関東平野を一望できる。デビュー50周年のユーミンこと松任谷由実のポップな音楽を探索するには絶好の機会であり、ユーミンの知的生産活動を丸ごと展示した画期的なイベントだった。

「YUMING MUSEUM」という展覧会が東京・六本木ヒルズの東京シティビュー(屋内展望台)で開催されている(会期は2月26日まで)。デビュー50周年のユーミンこと松任谷由実のポップな音楽を探索するには絶好の機会であり、ユーミンの知的生産活動を丸ごと展示した画期的なイベントだ。本稿では日本のポップスの歴史を振り返りながら、グループサウンズとユーミンをひもとき、ユーミンのデビュー時の知られざる秘話について記していく。

映画「ビー・ジーズ 栄光の軌跡」が2022年11月25日から公開されている。東京ではヒューマントラストシネマ渋谷と新宿武蔵野館、大阪ではシネ・リーブル梅田といった文芸作品を上映する小型の映画館でスタートし、順次全国主要都市で上映する予定だ。ビー・ジーズは1967年の「ビー・ジーズ・ファースト」から2001年の「ディス・イズ・ホエア・アイ・ケイム・イン」まで、34年間に20枚のアルバムを発表し、全世界の売上枚数(レコード、CDなど)は、2億2000万枚を超える(タワーレコードの解説)。「ビー・ジーズ 栄光への軌跡」は、そんな世界的グループの幼少期から現在までを記録映像で編んだ秀逸なドキュメント映画だ。

新橋-横浜間の鉄道開業が1872(明治5)年、ちょうど150年前のことだ。これを記念した展覧会やさまざまなイベントが全国で開催されている。新橋-東京間の高架橋下の飲み屋、喫茶店、食堂は頻繁に訪れていた。あの「赤レンガ高架橋」は鉄道開業の30年後、明治末に出来上がったもので、100年以上前のたたずまいがそのまま残っている。鉄道のアニバーサリーを祝し、一人で100年前の赤レンガ高架橋下を全部歩いてみた。

東京都美術館(東京・上野)で「展覧会 岡本太郎」が始まった(12月28日まで)。大阪中之島美術館に続く「東京展」の後は、「愛知展」が開催される予定だ(愛知県美術館、2023年1月14日から3月14日まで)。1970年に開催された大阪万博のシンボル「太陽の塔」は誰もが知る岡本太郎の作品だろう。70メートルの巨大な縄文土器が、平坦な金属の屋根を突き抜けるようにそびえ立ち、圧倒的な存在感で驚かせた。あれから52年、太陽の塔は万博記念公園で保存され、内部の造形「生命の樹」は整備されて2018年から一般公開されている。岡本太郎の芸術は生誕111年を経て、現在も世間を挑発し続けている。

『プラウド・メアリー』『バッド・ムーン・ライジング』『雨を見たかい』など、一連の大ヒット曲で、1960年代末から70年代初頭にかけて世界中のヒットチャートを席巻したのがアメリカのロックバンド、「クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル」である。彼らは52年前、クラシックの演奏会も開催する格式高い英ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールでコンサートを開いた。そのライブを丸ごと収録したCDが52年もの時を経て、2022年9月16日に初めて発売された。

1970年5月に公開された映画『レット・イット・ビー』は、69年1月に行われたザ・ビートルズのレコーディング風景を記録した映画だ。暗い色調でザラッとしたフィルムの質感のため、沈うつな印象のままポピュラー音楽史を通り過ぎていった。それから50年超――同映画を、『ロード・オブ・ザ・リング』の鮮やかな映像美で勇名をはせたピーター・ジャクソン監督が“リメイク”。『ザ・ビートルズ:Get Back』と題して2021年11月に公開された。公開といっても劇場ではなく、ディズニープラスによる配信だ。この作品がソフト化され、ついに22年7月、完全版が発売された。
