コーポレートガバナンスコード(企業統治指針)を5年ぶりに改訂
コーポレートガバナンスコード。株式市場では普段あまり聞きなれない言葉である。個人投資家においては「最近初めて耳にした」という人もたくさんいるのではないだろうか。
コーポレートガバナンスコードを日本語に訳すと「企業統治指針」。上場企業に対して企業価値向上を求めるための行動指針であり、取締役会の役割、社外取締役の活用、透明性や平等性の確保、情報開示、株主との対話など全78原則から構成されている。強制力や罰則規定はないが、これらの指針を守らない場合は投資家に対して理由を説明することが求められている。金融庁と東京証券取引所が2015年に導入。2018年と2021年の二度に渡って見直しを行い、2026年に5年ぶりに改訂されることになった。
昨年10月から金融庁で有識者会議が複数回行われ、その改訂版が今年の7月21日に公表された。その内容は、持続的な「成長投資の促進」、投資家との対話を促す「有価証券報告書の株主総会前開示」、そして意思決定の質を高める「取締役会の機能強化」の3点が改訂の柱となっている。それぞれの骨子を簡単に確認しよう。
改訂の目玉が「成長投資の促進」。貯め込んだ現預金の活用を求める
「成長投資の促進」では現預金を適切に活用しているかを上場企業に求める。新たな指針に則って現預金を投資に活用できているかを検証し、株主への説明義務を果たす。資金の配分は単に設備投資だけでなく、研究開発投資やM&Aの活用、人的資本も重視している。2025年度におけるTOPIX構成企業(金融除く)が保有する現預金は約170兆円。この20年間で3倍近くに積み上がった。株式市場では「企業は余剰資金を貯め込み過ぎて有効活用できていない」との見方が根強い。とりわけ海外投資家の視線が厳しくなっている。本格的なインフレ時代、企業が過剰なキャッシュを持つことに何のメリットもない。「将来の不安が…」と言い訳しても投資家から笑われるだけだ。金融庁と東京証券取引所が音頭を取って、上場企業の肩を押すことに私は賛成である。
「有価証券報告書の株主総会前開示」の目的は何か。一言で言えば、株主が総会で議決権行使や質疑応答をする前に、重要な情報を十分に確認できるようにするためである。有価証券報告書には、役員報酬や中期経営計画など投資家の意思決定に有用な情報が多くあり、投資判断に必要な時間を確保することが重要との見解を金融庁も持っている。株主総会の前に財務・経営情報を共有し、株主が取締役の選任・解任や会社側の提案を判断しやすくし、企業と投資家の対話を促進させる狙いがある。金融庁は本来、株主総会の3週間以上前の開示が望ましいとの考えを示しているが、まずは前日や数日前の開示から進めるように要請している状況である。
社外取締役の質が不十分な中、「取締役会の機能強化」の効果は疑問視
そして「取締役会の機能強化」。果たして十分な成果が上げられるかどうか私は甚だ疑問視している。社外取締役は2005年の会社法で制度化され、2015年のコーポレートガバナンスコード導入時に本格的に始まった。あれからわずか10年で1万人規模の社外取締役が誕生。しかしながら、形式的に誕生しただけで実態は機能不全に陥っているのが現状だ。会社側からは「役に立たない」、投資家側からは「頼りない」という批判が多く聞かれる。企業経営の監督のみならず、有益な助言や意思決定への貢献も求められている社外取締役。重い責務を負っているが、そこには公的資格や研修制度などが全く存在していない。これは日本特有の現象であり、米国、英国、中国などでは認定制度や試験が存在する。
私自身、小型株のトップアナリストを長年やってきたキャリアがあるため、今まで社外取締役の話がいくつか舞い込んだがすべてお断りした。これは私が独立して自分の会社でIRや経営コンサルを5社ほど担当した経験からの判断だ。私が得意とするマーケット目線で企業価値向上に資するアドバイスをしても経営陣が拒否するのだ。特にオーナー企業の上場会社は「社外取締役は形式的に揃えればよい」と思っている節が相当ある、というのが私の見方だ。にわか社外取締役の顔ぶれをいろいろ見てみたが「どうしてこんな人が?」のオンパレードだった(笑)。社外取締役に相応しい経験・能力のある人が非常に少ない問題はなかなか解決されそうにない。
今回の改訂は株式市場にプラス。より株主に向いた経営の促進が期待
ここからが本題。今回のコーポレートガバナンスコード改訂が、今後の株式市場にどう影響するか? 私は大いに期待している。配当込みTOPIXは2023年から4年連続で20%超の上昇(2026年8月31日時点)となり、2022年末からは135%の上昇と、目覚ましいパフォーマンスを遂げてきた。その大きな原動力となっているのがコーポレートガバナンス改革なのだ。言うまでもなく、2023年3月の「東証要請」(『資本コストや株価を意識した経営』に関する要請)が上場企業の改革契機となっている。旧来の保守的な経営スタイルから投資家の期待に応えるべく企業価値向上のために、資本効率を十分に意識した経営スタイルへと舵を切ることを促した。この結果、株主還元の積極化、持合い株や親子上場の解消促進、TOB(株式公開買い付け)やMBO(経営陣による自社買収)の増加、さらには株主総会での経営トップ選任がシビアになるなど、本来あるべき姿に転換した。
今回の改訂は更なる一歩を踏み出すことになる。特に「成長投資の促進」は大きい。これまで無駄に積み上がり、眠っていた大規模資金が動き出すことによって資本効率が改善し、新たなリターンを生み出す源泉となるのだ。日本企業が低位に甘んじているROE(自己資本利益率)の向上(TOPIX9.3% vs S&P21.9%:2026年6月末時点予想ベース)にも好影響を及ぼすことになる。そして、株主還元の一段の強化も期待される。「割安には理由がある」と従来は海外投資家に敬遠されてきた日本株への評価がさらに高まっていくと私は考えている。
改訂を踏まえたコーポレートガバナンス報告書の提出期限は2027年7月末日がメドだが、株主総会後にどんどん出てくるだろう。皆さまとともに日本株のグローバル地位の向上に期待したい。
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