外資系投資顧問でファンドマネジャー歴20年の山本潤氏による、10年で10倍を目指す成長株探しの第4弾。今回は、今最も世間を騒がせている日産自動車(7201)を分析します。
ゴーン経営で実は有利子負債は15年前の3倍に!
★★★☆☆(5段階中 3 5が最高評価)
1999年に経営危機に陥った日産自動車(7201)にルノーから送り込まれたカルロス・ゴーン氏。その後の5年間は、まさに日産の救世主となってコストカットなどに努め、時価総額は2004年3月期には5兆円を超えていました。しかし、現在の時価総額は4兆円台に低迷しています。一方で、当時の有利子負債は2兆円台でしたが、現在の日産の有利子負債は7兆円台です。
この15年間で、日産は有利子負債を3倍以上にしてしまったのです。そして、同期間の時価総額は上がるどころか、むしろ下がってしまったのです。つまり最初の5年は別にして、その後15年間のカルロス・ゴーン氏の経営は、株主から見ても、評価できるような内容ではありませんでした。
たしかに、ゴーン氏は、20年前、日産の再生に立ち会いました。コストカッターとして、日本企業の系列のしがらみに囚われないで、購買先を次々と見直しました。部材単価を値切ることで、業績を向上させる手法をとりました。その大胆なコストカットの手腕は市場から高く評価されました。
当時の市場がゴーン氏を持ち上げたのは、ゴーン氏が単なるコストカッターではないと感じさせたからです。そのときのゴーン氏は、「日産車のファンだ」と公言していました。往年の名車フェアレディZを復活させたことがありました。
また、一旦、廃部を決めた野球部でしたが、就任後に都市対抗野球を見学に訪れたゴーン氏が社員の一体感に感激し、野球部廃部を取りやめるという決断をしたこともありました。(リーマンショックのときに結局廃部となります)
当時の日産の社員は、「ゴーン氏が日産を愛している」と感じていたのです。だからこそ、ゴーン氏は組織の中で求心力を保つことができました。
社員の心がゴーン氏から離れたのか?
時は流れ、会社が減益となっても、ゴーン氏は高額報酬を貰い続けました。会社の計画を達成できないときは部下のせいだ、ともとれる発言を度々してしまいます。
社員たちの心は次第にゴーン氏から離れていきます。日産の組織は血流が止まったような悪い状態になってしまったのです。
今回のゴーン氏の逮捕は、報酬の虚偽報告、会社資産の流用、私的な支出を会社経費とした、などとされています。社内の告発とはいえ、最後まで誰からも親身の進言がなかったことからゴーン氏は裸の王様であったのでしょう。絶対権力者だったゆえに、引き際を失った形になりました。今回の逮捕劇はあまりにも衝撃的な末路でした。
今後の日産は減配リスクあり
ルノーや三菱自動車の経営も掌握していたゴーン氏が退くことで、この3社のアライアンスの方向性が揺れ戻る可能性があります。
日産は独自色を出そうとするでしょう。日産技術陣は、技術ではルノーに負けていないと自負しているからです。ルノーからやや距離を置くことになれば、大株主のルノーの株式の将来の放出などのリスクが生じる可能性もあります。また、大株主の意向で配当を年々増やしていった経緯を考えると、今後、日産株には減配のリスクがあるのではないかと考えざるを得ません。配当を増やしていったのは、ゴーン氏自らが300万株を超える日産の株主であることや何十億円にものぼるとされる株価連動報酬のためだったのでしょうか。そう考えるのは勘ぐりすぎでしょうか。
今後、日産は配当を維持できるほどの余裕があるのでしょうか。近年、自動車業界は、次世代技術の電気自動車、水素自動車などへの対応を求められる上、自動運転やカーシェアリング事業への足場を作る必要があります。借金を増やして配当を出している余裕がないのが実情です。社員に報いるためにまずは労働分配率をあげるのが先決です。今後の日産がフランス政府を向いた経営ならば配当を維持するでしょう。あるいは、日産がフランスではなくて日本政府を向いた対応をするならば、今後は配当よりも労働分配率向上の方向性でしょう。
もちろん、労働分配率をあげて配当も維持するというのが次期経営者からの模範回答となるでしょうが、環境が許せば、の話です。
自動車産業を取り巻く環境を考えると、来期以降、日産株の減配のリスクは相応にあると考えざるを得ません。
この連載は、10年で10倍を目指す個人のための資産運用メルマガ『山本潤の超成長株投資の真髄』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、週2回のメルマガの他、会員専用ページでは今回の日産自動車(7201)のさらに詳しい分析や、資産10倍を目指すポートフォリオの提案と売買アドバイスもご覧いただけます。