転職や退職したら、「iDeCo」や「企業型DC」はどうなる?
4月は、転職や退職の多いシーズンです。3月末を区切りに会社を退職し、4月からは別の会社で働き始めるという方もいらっしゃるのではないかと思います。
転職や退職時には、さまざまな手続きが必要になりますが、あなたがもし、「企業型確定拠出年金(以下、企業型DC)」や「iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)」に加入していた場合は、転職や退職時にやらなければならない手続きが1つ増えます。それが「確定拠出年金の口座の引き継ぎ作業」です。
そこで今回は「企業型DC」と「iDeCo」、それぞれに加入していた人が転職や退職する際には、どのような手続きが必要になるのか、ポイントを解説したいと思います。
【「企業型DC」のある会社を辞めたとき】
転職先に企業型DCがなければ「iDeCo」に資産を移換!
まず、「企業型DC」に加入している人が転職や退職をする場合の手続きについて見ていきましょう。
もし「企業型DC」での資産額が1万5000円以下の場合、無条件で「企業型DC」を解約(「脱退一時金の請求」といいます)することができます。これは「企業型DC」の特例措置です。
しかし、それ以上の資産がある場合は、基本的に「企業型DC」での資産運用は一旦中断し、「iDeCo」か、転職先の「企業型DC」に資産を引き継ぐことになります。これを「ポータビリティ」といいます。携帯電話会社を変更するときに携帯電話番号を引き継ぐ(ナンバーポータビリティ)のと同様に、転職や退職してもDC口座を引き継ぐことになるのです。
では、どのように手続きを行えばいいのでしょうか。退職時に会社からDC口座のポータビリティに関する説明があり、後日、運営管理機関から書類が届きます。これをもって退職から6ヵ月以内に移行の手続きを行うのが基本的な流れになります。
ここまでの話をまとめると、
・転職先に「企業型DC」がある会社の場合、新しい会社の「企業型DC」に引き継ぐ
・転職先に「企業型DC」がない会社の場合(もしくは退職後に再就職しなかった場合)、「iDeCo」に引き継ぐ
ということになります。以下で、転職後に必要な手続きについて具体的に見ていきましょう。
転職先に「企業型DC」がある場合は、話は簡単です。新しい会社の人事部に「前職で企業型確定拠出年金をやっていた」と告げれば、必要な手続きがスタートします。法律により前職での企業型確定拠出年金の資産は必ず引き受けなければならないと決まっているので、新しい会社で資産の受け入れを拒否されるようなことはありません。
一方、「企業型DC」がない会社に転職したり、会社に就職せずにフリーランスになったりした場合は、自分で「iDeCo」の資料を取り寄せ、新規で「iDeCo」口座を開設して、「企業型DC」の資産の引き継ぎを行うことになります。このとき、資産の引き継ぎをするには「個人別管理資産移換依頼書」が必要です。
さらに「iDeCo」で掛金を拠出する場合は、「iDeCo」の口座開設に必要な書類(「個人型年金加入申出書」および「事業所登録申請書兼第2号加入者に係る事業主の証明書(会社員や公務員の場合必要となる職場の証明書)」)などが必要になります。
実は、資産を移換させた後、必ずしも「iDeCo」で掛金を拠出する必要はありません。ただし、資産を移換させておくだけでも、毎月、口座管理手数料が引かれ、資産の運用益が手数料を下回れば資産は目減りしていきます(このように、新たに掛金を拠出することなく、確定拠出年金の口座で運用を行っているだけの人を「運用指図者」と呼びます)。
「iDeCo」では、掛金の全額が所得控除の対象になるなど税制優遇も受けられますので、せっかく資産を移換したのであれば、「iDeCo」に掛金を拠出することをおすすめします(このように、確定拠出年金に掛金を拠出している人を「加入者」と呼びます)。
(また、あえて新しい会社の企業型DCに資産を一元化させずにiDeCoに資産を移しておくことも可能です。ただし、この場合は掛金拠出ができず、必ず運用指図者となってしまいますので、あまりおすすめできません)
【※関連記事はこちら!】
⇒「個人型確定拠出年金(iDeCo)」を活用すれば、多くの人が運用利回り15~30%の“天才投資家”に!「iDeCo」のお得な仕組みと節税メリットを解説!
金融機関から「iDeCo」の申し込み書類を取り寄せる段階で、「前職からの引き継ぎ資産あり」と「なし(新規加入)」の場合で書類が分かれているかと思います。自分に必要な書類は何かをよく確認して記入し、金融機関に提出してください。
わからない点があれば、運営管理機関のコールセンターに問い合わせてみてください。きっと丁寧に回答してもらえるはずです。前職の会社の人事部に問い合わせするより正確な情報を教えてくれますので、気軽に問い合わせてみましょう。
【「iDeCo」に加入していた人が会社を辞めたとき】
転職先に「企業型DC」がなくても申請が必要!
次に、「iDeCo」に加入していた人が転職や退職をする場合、どのような手続きをすればいいのでしょうか。
まず、転職先に「企業型DC」がある場合です。このときは新しい会社の人事部に「前職で『iDeCo』に加入していた」と告げると、必要な手続きを進めてもらえます。「企業型DC」に資産を移換すると、「iDeCo」の加入資格を失うことになり、「加入者資格喪失届」の提出が必要になります。これに関しては、自分で「iDeCo」の運営管理機関に提出する必要があるかもしれません。転職先の人事部に確認するようにしましょう。
転職先に「企業型DC」がない場合も、実は「iDeCo」の手続きが必要になります。「転職するけれど、転職先にも『企業型DC』があるわけではないから、『iDeCo』の手続きは不要だろう」と思った方はきっと少なくないと思います。しかし、「会社が変わった」ことを登録する手続きが必要ですので、忘れないようにしましょう。
厚生年金に加入していた人が転職した場合は、「iDeCo」の運営管理機関に「加入者登録事業所変更届」と、転職先が記入した「事業所登録申請書兼第2号加入者に係る事業主の証明書」を提出する必要があります。
このとき、会社に「企業年金制度」があるかどうかによって、「iDeCo」の掛金の上限額が変わるため、新たに毎月の拠出金額を決める必要があります。企業年金のない場合の掛金の上限金額は月2万3000円、企業年金のある会社か公務員の場合は月1万2000円が掛金の上限になります。
そのほか、中小企業などで働いていて個人で国民年金を納めていた人(国民年金の第1号被保険者)や、専業主婦(国民年金の第3号被保険者)だった人が転職・就職をした場合は、「iDeCo」の運営管理機関に「加入者被保険者種別変更届(第2号被保険者用)」と、転職先(就職先)に証明を受けた「事業所登録申請書兼第2号加入者に係る事業主の証明書」を提出する必要があります。
なお、もともと「iDeCo」に加入していた人は、転職にあたって「iDeCo」の運営管理機関は変更しなくてもかまいませんので(会社が特定の運営管理機関を強制することはできない)、そのまま積み立てを続けていくことができます。
転職や退職をした場合の「iDeCo」の手続きについては、国民年金基金連合会の公式ページにも情報がありますので、あわせてチェックしてみてください。
手続き漏れは資産の「塩漬け」になるうえ、
約8000円の手数料が余計に取られるので要注意!
ここまで見てきたように、「企業型DC」のある会社へ転職するなら、新規加入の手続きそのものは会社が行いますから、まず手続き漏れが起こることはありません。また前職の会社も、辞めた社員の掛金を払い続けるほどお人好しではないので、「企業型DC」の資格喪失の手続きが行われないこともまずありません。
しかし、「iDeCo」口座に資産を移す場合は、自分で手続きをすることになっていますので、忘れないようにしましょう。退職した会社は、退職後半年間は「iDeCo」の手続きをするよう促すべきとされているものの、実際には行われていないことが多いようです。手続きを怠ると、以下で紹介するような不利益を被ることになるので、必ず手続きを行うことをおすすめします。
退職後6ヵ月を経過しても資産の適切な引き継ぎが行われていない場合には、「iDeCo」の実施主体である国民年金基金連合会が資産を預かり、当座預金のような扱いで資産管理をすることになっています(自動移換)。
その際、国民年金基金連合会へ資産を移す段階で4269円が手数料として引かれ、かつ資産を正規の「iDeCo」口座に移す段階でさらに3857円の手数料が引かれることになっています。要するに、退職後6カ月間に手続きをせず、自動移管になった場合、合計で8129円もの金額が手数料として取られてしまうのです。さらに、毎月口座管理の手数料として51円が引かれるのですから、もったいないとしか言いようがありません。
普通に「iDeCo」口座を持っていても、口座管理手数料を引かれるのはもったいないと思いますが、自動移換になるのと、それ以上のマイナスを被ることになります。
転職や退職のときには忘れずに、「iDeCo」や「企業型DC」の資産の引き継ぎをするようにしましょう。
「iDeCo」「企業型DC」の資産はいつ売って、買い直せばいい?
確定拠出年金では、株価の変動はあまり気にしなくていい!
ところで、移換された資産については、その後、どのように運用することになるのでしょうか。「『iDeCo』に加入をしていて、転職・退職後も金融機関は変わらずに『iDeCo』に継続加入」という場合を除いて、いったん売却して現金化され、その後、新しい運営管理機関に資産を引き継ぎ、改めて運用指図を行うことになります。
転職によって「企業型DC」を乗り換えた場合、同一の金融商品が前職の会社と新しい会社のどちらにも採用されているというのはレアケースで、違う金融商品で新たに資産配分を行うことになります(仮に同一の商品があっても、現金化して買い直すことは変わらない)。
このとき「売却した時点の株価水準」と「買い付け直した時点の株価水準」にズレが生じることが気になる方もいらっしゃるかと思います。
しかし、60歳まで続けていく資産運用ですから、その程度のズレをあまり気にする必要はありません。「売るべき最適日」や「買い直す最適日」を考えても、日経平均株価で何千円も差がつくことはあまりありません(といいつつ、株価が乱高下している今日この頃ではありますが)。
確かに、前職で築いたDC資産をさっさと売ったあとに株価がもっと上がれば、きっと後悔します。かといって、いつまでも様子見をしていて移換の期限までに売却しなければ、強制的に現金化されるだけです。
一方、新しい会社の「企業型DC」口座や「iDeCo」への現金の受け渡しが終了したあとであれば、「買い直す日」については自分で選ぶことができます。ただし、買い直すタイミングを狙ったとしても、実際は翌日もしくは翌々日の基準価額で対応されるので、こちらもうまくはいかないでしょう。むしろ、ずるずる先送りしていたら何ヵ月もたってしまい(定期預金のままほったらかしだったなど)、運用益を得る機会を失うことにもなります。
一番高値で売って、一番安値で買うのが理想的ですが、そんなに簡単なことではありません。新しい会社への転職も落ち着いて、「企業型DC」や「iDeCo」に資産が引き継がれたと通知があったら、早めに確定拠出年金での投資をリスタートすることをおすすめします。
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1995年株式会社企業年金研究所入社後、FP総研を経て独立。ファイナンシャル・プランナー(2級FP技能士、AFP)、1級DCプランナー(企業年金総合プランナー)、消費生活アドバイザー。若いうちから老後に備える重要性を訴え、投資教育、金銭教育、企業年金知識、公的年金知識の啓発について執筆・講演を中心に活動を行っている。新刊『読んだら必ず「もっと早く教えてくれよ」と叫ぶお金の増やし方』(日経BP社)が好評発売中。
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