さらに言えば、民主党が巨大企業の寡占・独占を問題視し始めたのは、今回の大統領選挙が初めてではない。ウォーレン議員は、2016年6月に行った演説で、銀行、航空、医療保険、製薬、さらにはビール業界などでの寡占・独占を指摘し、反トラスト法の運用強化を提案している。また、民主党が下院で多数党となった2018年11月の議会中間選挙でも、民主党の選挙公約の1つの柱は、寡占・独占対策の強化だった。

寡占・独占が米国経済を蝕む
研究開発、設備投資、賃金は伸び悩み

 巨大企業の存在が大きな争点になってきた背景には、米国における寡占・独占の進展がある。ブルッキングス研究所によれば、1997年から2014年の間に、上位4社の売り上げが全体に占める割合は、各産業の平均で24%から33%に上昇している。4分の3の業種で売り上げの集中が進んでおり、特に情報通信や金融、小売といった業界での変化が大きい。

 個別の事例を挙げると、たとえばインターネットの検索サイトでは、上位2社が約9割のシェアを占めている。携帯電話事業では、7割のシェアを上位2社が分け合う状況だ。各候補が問題視する農畜産業についても、たとえばトウモロコシの種苗では、上位4社だけで8割のシェアを超える。精肉の分野では、牛肉では約8割、豚肉では約6割、鶏肉では約5割のシェアを、上位4社で占めている。

 寡占・独占などによる市場競争の弱まりがもたらす弊害は、国際的な論点になっている。2019年4月に発表された国際通貨基金(IMF)の世界経済見通しは、2000年から2015年の期間を対象に、追加利益率(生産に必要な費用に対する実際の価格の比率)を指標として、企業が市場を支配する力を分析している。それによれば、先進国では追加利益率が緩やかに高まっているなかで、とりわけ米国ではその上昇率が先進国平均の約2倍に達しているという。

 さらにIMFは、追加利益率の上昇が一部の企業に牽引されている点を指摘しつつ、市場における競争の弱まりによって、経済のダイナミズムが奪われる経路を分析している。

 たとえば、研究開発である。IMFによれば、市場の集中度が高まっていく過程では、研究開発は活発化する。競争に勝ち抜くために、企業には研究開発を進めるインセンティブが働くからだ。しかし、ひとたび企業が独占的な立場を手にすれば、研究開発に力を注ぐ必要性は薄れる。その証拠に、追加利益率が一定の水準を超えると、研究開発は低下に転ずる傾向にあるという。