「大企業サラリーマン」は歴史における一瞬の現象に過ぎないPhoto by Yoko Akiyoshi

ビジョナリー(未来を予見できる人物)――海外のメディアはしばしば、プレイステーションを生んだ久夛良木健(くたらぎ・けん)氏をこう呼ぶ。テクノロジーの真贋(しんがん)にとどまらず、時代の真実を見通すことができる久夛良木氏の目には、今の日本がどう見えるのだろうか。(ダイヤモンド編集部副編集長 杉本りうこ)

20代が年金を心配する
日本への絶対危機感

――久夛良木さんが今回、人工知能(AI)とロボットのスタートアップを経営するのは、日本への強烈な危機感があるからだそうですね。

 この国はもう「世界に遅れる」どころじゃない。完全に停滞した、危ない状態に陥っていると思う。停滞という言葉すらまだ甘いかもしれない。加速度的に、どんどんへたりつつあるね。そしてその原因は、間違いなく教育にあると思う。日本の教育は数十年かけて、チャレンジできない人間を作ってしまった。

 この間ある大学で、集中講義をやったんだ。テーマは技術革新でね、文字の誕生からイノベーションの長い歴史を語ったんだよ。

 活版印刷が生まれて、産業革命が起こって、T型フォードを経て大量生産大量消費の時代に突入する。1980年代になるとデジタル革命が起こる。そして今、クリスパー・キャス9でゲノム編集が可能になって、AIが社会実装されつつある。講義で「キャス9はノーベル賞を取る」と言ったら、本当に受賞したよね。

 これを終えた後に、学生に感想を聞いたんだ。そうしたらたまげたよ。「AIとかゲノム革命とか、すごいとは思う。でも今ひとつピンと来ない」「それよりも将来が不安」「先生、私たちは年金をもらえるんでしょうか」と言うんだ。