日本企業の社員は「いけすの魚」
このままではアジアにも人材が流出

 日本以外での多くの国々では、入社して3~5年たった社員は盛んに転職し始める。特に東南アジアでは近年、欧米でMBA(経営学修士)を取った人材が増えている。こういったハイクラスの人材は、自分のスキルや経験をより生かせる職場を求め、積極的に転職する。また現地の大手企業や欧米の外資系企業も、彼らにふさわしい給料で迎え入れる。

 これに対して日本企業はどうか。日本企業は新卒の採用においては、海外各国よりも高いコストをかけ、優秀な人材を確保しようと努力する。しかし一度採用してしまえば、日本企業の人材は「いけすの魚」のようなもの。

 彼らは転職をあまり好まず、高い給料を支払わなくても逃げ出さない。このいけすの魚状態が、経験を重ね、本来なら人材市場で高い価値を得られるエグゼクティブレベルでも続くのだ。

 日本人の間には、「そうは言っても日本企業の給料は、新興国に比べればまだ高い」という思い込みがあるように感じる。だが今回のデータで浮き彫りになった現実を直視し、他国に伍す給料戦略、人材戦略を講じなくては、日本の企業や産業の競争力自体が早晩大きく損なわれるだろう。

 そんな不安を感じさせるのが、海外現地法人の状況だ。

 日本企業は海外に進出した際、現地の人材をコストダウンのために起用する傾向がある。欧米の現地法人を除けば、「海外の拠点で、日本人より高給で現地人材を採用するなんてあり得ない」と考える企業が少なくないのだ。そして本当に優秀な現地の人材を起用せず、「優秀ではないが給料が安い現地の人材」か、「日本から派遣する駐在員」のどちらかを使おうとする。

 だが世界的に見れば、重要な仕事を現地の優秀な人材に任せることはごく普通だ。能力が高く、現地の市場やビジネスの慣習をよく理解している人の方が、より結果を出せるからだ。決してコスト削減のために現地の人材を起用しているのではない。

 日本企業はこのままだと、人材力の差で海外市場でライバルに負けていく。さらに将来的には、日本国内の優れた人材が海外へ大量に流出する恐れもある。日本にとってこれまで、優れた人材が流出する先は米国や欧州の先進国というのが定石だった。しかし今後は、アジア各国への流出も起こりかねない状況だ。