タワマン節税崩壊?
最高裁判決で監視の目強まる
賃貸不動産を活用した相続税対策も人気だ。しかし、この対策も今後は慎重に考える必要がある。22年4月に、相続税調査の方針に大きな影響を及ぼしかねない最高裁判所の判決が出たからだ。
この裁判の経緯を簡単に説明しておこう。
札幌市に住む男性が、09年に東京都内などのマンション2棟を合計13億8700万円で購入し、12年に94歳で死亡した。その後、このマンションなどを取得した複数の相続人(以下「納税者」)が「税額ゼロ」として相続税の申告を行った。
この納税者は、原則的な評価方法を使い、路線価を基にマンション2棟をおよそ3億3400万円と評価した。そしてマンション購入のための借入金などを差し引いた結果、相続税を「0円」として札幌南税務署に申告していた。
これに対し、札幌南税務署長は、不動産鑑定士による鑑定評価額に基づいて相続税を再計算。加算税を含めて3億円を超える税額を追徴課税した。その後、納税者がこの処分を不服として税務署を訴えたところ、1審、2審と敗訴し、最終的に最高裁に訴えを退けられたのだ。
相続税の計算上、不動産の評価額は時価よりも低くなる。特にタワマンの上層階のような高額な不動産を買えば、時価よりもかなり低い評価額で相続税を計算できる。しかも不動産を購入するときに組んだローンの残債を相続税の計算上差し引けるため、大きな節税効果が生じる。
最高裁判決の判決文を読むと、被相続人や納税者が相続税の負担軽減の意図をもってマンション購入や借り入れをしていたこと、こうした取引がなければ相続税の課税価格が6億円を超えていたことなどの個別事情が考慮された結果であることが分かる。
そのため、賃貸不動産を活用した相続税対策が今後絶対に認められないわけではないが、最高裁判決の影響は今後の相続税調査に及ぶと考えられる。
かねて不動産を用いた「行き過ぎた節税」については、政府税制調査会でも問題視されていた。そのため、最高裁判決を受けて国税庁がさらに監視の目を強化することは間違いない。なぜなら、国税側の勝訴となる判決は、現場の職員の心理面に大きく影響するからだ。
「最高裁のお墨付きを得た」という事実は、相続税申告の適否を判断し、税務調査を行う現場の職員にとって非常に心強いものとなる。
今回の最高裁判決が出たことで、職員の中でも「路線価で不動産価格を評価しているけれど、問題ないのか?」との疑念が起きることは想像に難くない。その結果、これまではスルーされていたような案件についても、相続税調査の対象になるかもしれない。不動産を活用した相続税対策が完全に封じられたわけではないが、“やり過ぎ”は禁物だ。