ウクライナ軍は欧米諸国から偵察衛星、測位衛星、通信衛星などの宇宙アセットの提供を受けることで、短期間で前ページで紹介したような分単位、リアルタイムでの作戦指揮の手法を習得したとみられる。一方、ソ連時代の宇宙技術を継承したはずのロシアは、このような作戦指揮を執れていないようだ。
昨年9月のウクライナ・ハルキウ州での大規模な反攻作戦では、街道を軸として移動するロシア軍に対し、ウクライナ軍が道路から離れて柔軟に部隊を移動させ、ロシア軍部隊の後背を突いて翻弄する場面が見られた。ウクライナ軍はロシア軍の位置を衛星情報などを活用してリアルタイムで把握し、短時間で作戦を立案して速攻で撃破し、ロシア軍の援軍が到来する前に次の行動に移っていったと思われる。
戦車やミサイルといった戦力で優位にあったはずのロシアは、リアルタイムの作戦指揮で戦力を効果的に運用するウクライナ軍に、予想外の苦戦を強いられることになった。
ソ連崩壊に伴い、ソ連の軍事的脅威が激減したことで、米国をはじめとした各国の宇宙の軍事利用の必要性が低下した。そのため、従来なかった利用手段を新たに開拓することよりも、従来から利用されていた宇宙の衛星データなどを、より地球上の戦闘で有効活用することに主眼が置かれた。ウクライナ戦争で宇宙利用が成果を上げたのもその一環といえる。
新時代の宇宙軍事利用では中国が先行
「宇宙戦闘機」も視野に!
さて、日本人であれば気になる、台湾海峡での有事など中国の動きについてはどうだろうか?実は、中国は宇宙を活用した軍事行動で米国に先んじており、米国はその対応で後手に回っていることが明らかになっている。
これまで紹介してきた、従来型の宇宙アセットを利用した作戦指揮能力を持つことは、中国も重視している。つまり、日本周辺で有事が発生した場合、宇宙アセットを利用した作戦指揮能力をより高度に備えた側が、戦力を倍加させて優位を確保できるだろう。逆に言えばそれができなければ、いくら戦力を整えても少数の敵に敗北する可能性が高いということだ。
しかし、中国に関してはそれだけではない。
冷戦終結から現在に至るまでの期間に、経済、技術、軍事力などあらゆる面で躍進した中国は、宇宙軍事利用でも冷戦期の延長ではなく、新たな分野での利用を拡大してきた。そして、こういった新規分野で米国は出遅れてしまったのである。