12月19日開催の日銀会合の結果は現状維持。マイナス金利解除なし
政策は現状維持、マイナス金利解除なし、フォワードガイダンスは不変―。
非常に注目されていた12月19日火曜日、今年最後となる日銀の金融政策決定会合が開催された。結果は大方のマーケット関係者の予想通り、従来通りの大規模金融緩和の維持である。しかも金融政策の先行き指針を盛り込んだフォワードガイダンスも変更されなかった。「全然チャレンジングじゃないじゃないか!」という声があちこちから聞こえてくる内容だった。
会合前まで「チャレンジング」という言葉に振り回されていた為替市場と日本株市場。12月12日のコラムで私が話題にした日銀植田和男総裁のチャレンジング発言である。
円高・株安が進んだのはチャレンジング発言を引き締めと早合点したこと
「チャレンジングな状況が続いていますが、年末から来年にかけて一段とチャレンジングになると思っています」。12月7日の参議院財政金融委員会における植田総裁の発言を受けて為替市場でドル円は145円台から一気に141円台まで急騰、日経平均株価も587円安となり円高・株安が進んだ。私がコラムで指摘したように植田氏の発言は金融政策に関する質問の回答ではなく、日銀総裁としての職務一般に関する質問の回答だった。そのため「早ければ年内にも金融政策はチャレンジングに引き締め方向に変更される」という早合点がマーケットを動かす状況を招いた。
それにしても、だ。欧米の中央銀行はインフレ加速や景気過熱への対策を早々に打ち、政策金利をどんどん上げてすでに最終盤。利上げ効果を確認しつつ「来年からはいよいよ利下げへ」という期待が高まるほどのダイナミックな展開をしているのに対し、我が国の中央銀行はこの間、ほとんど何もしていない。長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の修正を実行しただけだ。もし、金利正常化に向けて本格的に動き出すのならば、事前に告知する役割のフォワードガイダンスの文面を変更し、少なくとも「いよいよ日銀が動き出す」というニュアンスを伝えなければならなかったと思うが、12月時点においてはそれもなされなかった。
マイナス金利解除は来年4月が有力シナリオ。カギを握るのが賃上げ動向
とは言え、もちろん日銀はマイナス金利政策をいつ解除するか見極めの段階に入っている。19日の金融政策決定会合後の記者会見で植田総裁は次のように発言した。「2%の物価安定目標達成の確度は少しずつ高まってきているが、なお見極めていく必要がある」「来年1月にマイナス金利を解除する可能性は新しい情報次第」。市場関係者が最も重視しているのが4月の金融政策決定会合である。金融正常化に向けて重要な判断材料にしているのが賃上げの動向だからだ。春季労使交渉が始まるのは年明けの1月、そして大企業の交渉結果がまとまるのは3月中旬。労使交渉結果を確認した上で日銀が物価見通しを示す4月の会合で動くというシナリオだ。
このところ日米の金融政策が為替市場に与えている影響は大きいが、2024年は米連邦準備理事会(FRB)が利下げに動き、日銀が金融正常化で利上げに動けば「ドルが売られて円が買われる」、すなわち円高・ドル安の方向に進みやすい。すでにそうした先読みでドル円は151円台から現在142円台まで円が強含んでいる。日銀会合で「全然チャレンジングじゃないじゃないか!」という結果が出たため、日本の株式市場は上昇した。大規模金融緩和の維持で金利上昇が回避されたことで日経平均は12月19日に460円高、20日に456円高とわずか2日間で916円も上昇した。
日経平均が上昇する中、秋まで好調の日本の銀行株が苦戦する理由とは?
ところで秋頃まで絶好調だった日本の銀行株。2Q決算も非常に良い内容だったのに、今の株式市場で一人負けの状況になっている。この現象はまさに昨今の金融政策、すなわち金利動向の影響を受けているからだ。
「どうして日本の銀行株は下がって、米国の銀行株は上がっているのでしょうか?」。最近、私の元に多くの個人投資家から寄せられる質問だ。日米の長期金利がともに下がっているという状況で、何故このような違いが出るのか? 疑問を持つ方も多いと思う。
まず大事な点は、日本の銀行株は圧倒的に国内金利が収益に直結していることだ。なので「最近の日本国債10年物の利回りの低下(直近ピークの0.950%から0.550%に)→日本の銀行収益にマイナス→株価下落」という構図がこのところのメガバンクを始めとする銀行株下落の要因になっている。日銀が金融緩和を継続すると金利上昇が当面見込めず、「失望感」が漂うことになる(いずれマイナス金利が解除されると金利上昇で銀行株に大いにプラス)。
日本の銀行株は金利上昇でプラス、米国の銀行株は金利低下でプラス
一方、米国では金利が高すぎることが本業にマイナスの面が強くなっており(貸し出しが伸びない、貸し倒れリスク増など)、このところの米長期金利の低下(直近ピークの5.00%から3.84%に)は銀行にプラスと受け取られるのだ。「金利低下→”貸出が伸びない&貸倒れリスク増”の心配が減る→株価上昇」である。さらに言えば、銀行が投資している米国債の評価益は「米長期金利の低下→債券価格上昇→銀行収益にプラス(評価損縮小や評価益増加)」となる。特に米国の銀行は米国債価格の暴落により今春破綻したところが相次いだため、この点についてはいまだに敏感であり債券価格の上昇は歓迎される。日本の銀行株はこうした面ではほとんど評価されない。あくまでも本業、メインのビジネスに直結する国内金利の上昇が重要なのだ。
要するに、日本の銀行株と米国の銀行株は「金利上昇や金利低下」という視点において逆方向の動きになる。それは低すぎる金利環境と高すぎる金利環境におけるビジネスが全く異なることに起因している。こうした面について、皆さんにはきちんと理解していただきたい。
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※この連載は、ワンランク上の投資家を目指す個人のための資産運用メルマガ『太田忠 勝者のポートフォリオ』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、メルマガ配信の他、無料期間終了後には会員専用ページで「勝者のポートフォリオ」や「ウオッチすべき銘柄」など、具体的なポートフォリオの提案や銘柄の売買アドバイスなどがご覧いただけます。原則毎月第一水曜夜は、生配信セミナーを開催。
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