日銀総裁発言でドル円が141円台まで急騰。4カ月ぶりの円高水準に!
チャレンジング・ショック! ドル円は一時141円台に急騰―。
先週金曜日の未明、ニューヨーク外国為替市場でドル円は一気に急騰し141.608円の円高をつけてマーケット関係者を驚かせた。141円台は今年8月以来4カ月ぶりの円高水準である。もちろん、突然の動きには伏線がある。前日木曜日の参議院財政金融委員会における日銀の植田和男総裁の発言だ。「チャレンジングな状況が続いていますが、年末から来年にかけて一段とチャレンジングになると思っています」。東京市場ですでに為替は145円台に突っ込んでいたが、ニューヨーク市場では141円台にまで急騰する瞬間があり、その後、一瞬で143円台に戻す動きが見られた。
一連の激しい値動きはもちろん「チャレンジング」という言葉に反応したからだ。日本人が口にするチャレンジという言葉は「挑戦する」という前向きな姿勢を示すニュアンスがあるが、英語のニュアンスは少し異なり「難しい課題があって困難な状況に追い込まれているが、それに立ち向かう」という意味合いが強い。英語達者な植田総裁ならではの言葉だと思う。とは言え、植田氏の発言は実は金融政策に関する質問への答えではなく、日銀総裁としての職務一般に関する質問への回答だった。この点、注意が必要だ。
巨額の円買い・ドル売りで瞬時に急落したフラッシュクラッシュが発生
ところで、ニューヨーク市場で一気にドル円が141円台まで急騰し、その後急速に戻したのはなぜか?
この日のニューヨークの株式市場は堅調に推移していたため、このところ活発におこなわれているキャリートレードの巻き戻しではなく、金曜日に期限を迎える日本円のコールオプションに絡んだ売買だと推測される。2000億円以上もの大量のオプションを売っていた投資家が焦って円買いを行い、さらには高速・高頻度で売買するアルゴリズム取引も加わって円高が加速したものと思われる。巨額の円買い・ドル売りが入って、ドルが瞬時に急落する現象が起こって「フラッシュクラッシュ」が発生した。セリング・クライマックスを演出する最も典型的なイベントだ。そこで、思い出すのが1年前の12月20日。日銀の前総裁である黒田東彦氏が長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)を修正して、長期金利の許容幅拡大という唐突な金融政策の修正を発表。直後にドルのフラッシュクラッシュが起こり、この日の円相場は安値から7円強も急騰した。
マイナス金利解除への布石を打ち始める日銀。12月19日会合は要注目!
ところで10月の金融政策決定会合における結論は「現状のマイナス金利政策を維持、しかし長期金利は1.0%をメドとしてそれを超えるレベルも容認する」というYCCの再修正を図りながらも、全体的な金融緩和政策は維持するというものだった。次回の金融政策決定会合の発表は12月19日の火曜日である。どのような結論が出されるのか非常に注目される。
日銀がマイナス金利解除への布石を打ち始めているのは確かだ。例えば副総裁の氷見野良三氏は先週開かれた大分市内での金融経済懇談会で「日銀が金融正常化に踏み切った際の経済への悪影響は比較的少ない」「状況をよく見極めて出口のタイミングや進め方を適切に判断する」と述べた。また他の日銀審議委員のメンバーからも「物価上昇を上回る賃金上昇が実現する兆しが現れている」「企業の稼ぐ力が強まりつつある」「物価の先行きは上振れリスクが高い」との発言が聞かれるようになった。
市場では来年の2024年前半にも日銀がマイナス金利を解除するとの観測が広がっており、日銀が今まさに金融正常化に向けた地ならしを進めつつあると見ている。日銀は現在、10年に及んだ異次元緩和の総括を進めているところだが「負の側面」への認識も強く、早く適切に正常化を図りたいと考えているだろう。
金融正常化による逆風は一時的。日本の経済や株価にプラスになる
「これから米連邦準備理事会(FRB)が金融緩和で金利を下げれば株式市場にはプラスなのは理解していますが、逆に日銀が金利を上げれば日本株の株価は下がるのではないでしょうか?」という質問を私は非常によく受ける。日銀が金融正常化を行なえば当然、日本の金利は上昇するため株式市場にとっては逆風である。だが、それはあくまでも一時的なことだ。
日本株も含めて世界の株式市場の方向性を決めるのはFRBの金融政策である。日銀はFRBのような急速な金融引き締め政策は行わない。日本の場合、あくまでもマイナス金利からの脱却、すなわち「金融正常化」に向けたステップを踏むわけであり、日本経済にはプラスになる。「金利のない世の中では経済は活性化しない」と私はこれまで皆さんに申し上げてきた。「ゼロ金利、給料横ばい、増税、希望のない社会…」を過去10年来、我々は十分すぎるほど味わってきた。金融正常化は日本の株式市場にとって逆風ではない。「FRBが利下げを行い、日銀が金利正常化すれば、日本株は上昇する」。とても重要な点だ。
もう一点、重要なのが為替についてだ。「円高だから日本企業の業績にマイナスになって日本株が売られる」「円安だから追い風が吹いて日本株が買われる」というロジックである。かつては日本市場の方向性を見る上で重要な視点だった。でも、今は違う。為替はあくまで数字上のことであり、単に円安で利益がかさ上げされても株式市場では評価されなくなってきている。逆も然りだ。もちろん日々の株式市場の動きにおいて為替の変動で自動車や機械などの為替感応度の高いセクターの銘柄が売買されているが、それはあくまでも局所的なことだ。マーケットが見ているのは為替要因を除いた「真の企業の実力値がどうなのか?」である。そういう点にも留意していただきたいと思う。
太田流「新NISA活用法」の講義開始。1月4日には新春セミナーを開催!
さて、太田忠投資評価研究所とダイヤモンド・フィナンシャル・リサーチ(DFR)がコラボレーションして投資助言を行っている「勝者のポートフォリオ」。「テンバガー(10倍株)」についてのスペシャル講義となる全13本の講義動画が完成し公開中である。来たるべき「金融相場」に向けて着々と準備を進めている。また、12月からは太田流「新NISA活用法」の講義をスタートしたので、大いに参考にしていただきたい。
12月6日(水)20時よりWebセミナーを開催した。テーマは『年末ラリーに向けてマーケットを総点検』。年末の平日夜にもかかわらず参加者は274名となり盛況だった。次回は年明け1月4日(木)20時より『2024年のマーケット展望と投資戦略』と題してWebセミナーを行う。そう、まさに大発会の日だ。このコラムでは個別銘柄の話はできないが、セミナーでは今後大きく上昇が期待できる注目銘柄も存分にお話する予定だ。会員限定だが10日間の無料お試し期間を使えば誰でも参加可能である。セミナー当日14時までのお申込み(15時URL配信)。資産運用で大きく躍進されたい方々の積極的なご参加をお待ちしている。なお、有料会員の方々は後日アーカイブでの視聴ならびにプレゼンテーションPDFもご覧いただけるので見逃さないでほしい。
●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもDFRへのレポート提供によるメルマガ配信などで活躍。
※この連載は、ワンランク上の投資家を目指す個人のための資産運用メルマガ『太田忠 勝者のポートフォリオ』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、メルマガ配信の他、無料期間終了後には会員専用ページで「勝者のポートフォリオ」や「ウオッチすべき銘柄」など、具体的なポートフォリオの提案や銘柄の売買アドバイスなどがご覧いただけます。原則毎月第一水曜夜は、生配信セミナーを開催。
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