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どんな成熟産業にも成長企業は存在する!
かつて繊維産業・縫製産業は日本の主力産業でした。しかし、1985年のプラザ合意以後、円高で事態は一変します。人件費の安いアジアに縫製がシフトしてしまったのです。
1990年には全国で6万箇所あった繊維業界の事業所はどんどん減っていきました。現在は1万箇所しかありません。30年でなんと6分の1に事業所の数は減ってしまったのです。
繊維出荷額も1990年の12兆円から現状は2兆円へと減ってしまいました。衰退産業の代表が繊維なのです。
衣料の平均単価も下がりました。アジアから安い輸入が入ってきたためです。1990年当時と比べて衣料の単価は6割程度。平均的な価格が4割も下落してしまったのです。
さて、あなたならば、どうしますか。あなたが従業員を抱える縫製工場のオーナーであるならば...。
あなたの周りの人々は賢い人ばかりです。賢い人は、その賢さゆえ、運命論を振りかざします。さあ、安いアジアにますます生産がシフトしますよ。輸入品が入ってきて衣料の価格はどんどん下がりますよ。さあ、高齢化でこの先、どんどん職人はいなくなりますよ。給料が10分の1以下のバングラディッシュの職人と戦うつもりですかと。
あなたが父から受け継いだ縫製工場のオーナーであったならどうしますか。。
今回ご紹介する企業は、このような厳しい状況の中で、国内の雇用を守り、国内生産比率5割を維持する衣料メーカー、ナガイレーベン株式会社(7447)です。
どうしてナガイレーベン株式会社は多くの同業が淘汰された中で、上場企業有数の高収益企業になったのでしょう?
成熟する市場などない(どんな成熟市場にあっても成長企業は存在する)。
私は常々、声を大きくしてこう主張しているのですが...。賢い人々は、市場の広さばかり見て、市場の深さを見ようとしない。
市場という海を「広さ」ではなく「深さ」で見る。経営者と投資家は「深さ」で勝負するのです。深い場所にはブルーオーシャンが広がっているからです。
価格が半分になろうとも、出荷額が激減しようとも、成長する道はあるのです。その困難に立ち向かうからこそ、ワクワクドキドキする人生が歩めるのです。
考え抜き、努力を積み上げて、世の中の切実なニーズに応えていく。成熟の中で成長することは可能なのです。
医療にターゲットを絞り、シェア60%超に!
ナガイ白衣工業株式会社は1969年に設立されたナガイレーベンの完全子会社です。ナガイレーベンの供給する衣料の半分を生産する秋田県の工場です。
ナガイレーベン株式会社(7447)は白衣を販売する会社です。個人商店として大正4年に創業しました。ナガイ白衣工業に生産を任せ、それを販売するのがナガイレーベンです。同社は年間で600万着という膨大な白衣を販売している医療向け白衣のトップ企業です。
白衣は、いろいろな産業で使われています。もっとも多いのは食品の加工業者です。パン屋さんも白衣といえば白衣ですね。レストランのコックや皿洗いも白衣ですね。床屋さんも白衣を着ますね。白衣を作る、白衣を売るといっても、ターゲットはまちまちです。
経営資源を医療部門に絞ったのが同社の成功の始まりでした。医療だけにターゲットを絞れば、当然、大きな他の市場は諦めることになります。経営判断としては賛否両論あったでしょう。
病院向けの白衣に特化することで、品種あたりの量を取りに行きます。それによって工場で稼働益が発生しました。ロットを固めて利益をとる戦略でした。
数あった縫製工場の中で、その経営判断をしたのは数少ない企業だけでした。いや、同社だけだったのです。50年前、10%程度のシェアであった同社の医療向け白衣は、現在60%を超えるほどになっています(ただし、医療分野に特化していても5000アイテムもあります)。
日本の衣料は、長期低迷の中で生み出した機能性布地に強み
結果として、競合は少ないです。KAZEN(アプロン)が2番手ですが7%のシェアにすぎません。トップと二番手のシェアの差が10倍近くある市場では、値段の引き下げ競争は起こりません。
また、商品価格も長期で上昇しているのです。なぜでしょうか。後述しますが、おしゃれな白衣が売れていることや機能がどんどん追加されていくからです。
日本の衣料の強みは布にあります。これは東レなどの繊維メーカが、やはり、戦後の隆盛を極めてから、長期にわたり業績の低迷に喘ぐ中で、機能性布地に活路を見出したからです。企業も人も苦労するからこそ、革命的な商品を開発するのです。
東レとのコラボといえばユニクロが有名ですが、ユニクロよりも前に、すでに、ナガイレーベンは東レと組んでいたのです。
病院で着用する白衣ですから、
1) 抗菌機能が要求されます。
さらに、医療器具に悪さをしない工夫として、
2) 静電気を発生しない布が要求されます。
メディカルに特化したからこそ、個別のニーズに応えることができます。
特許も成立します。
例えば、ドクターが携帯電話をポケットに入れる。かつて、胸のポケットに入れた携帯電話がドクターが屈むと、患者の頭を直撃するなんてことがあればシャレになりません。
そこで、ナガイレーベンの特許では、携帯を入れるポケットを右下に配置することで、他が真似できない白衣を開発することができたのです。配置ですので、強力な特許です。
夏の日本の暑さは尋常ではありません。できるだけ薄くすると涼しい白衣となります。そこで透けない白衣を開発する、という具合です。
機能を高めることで価格は安定します。
また、昨今は、デザイン性が重視されます。可愛い白衣がデザインされるようになっているのです。
美容整形やインプラント歯科などの高額の金持ち向け医療機関も増えてきましたので、内装などにお金をかけます。白衣も内装にあう高級感を出すためにとてもおしゃれなデザインが増えています。これも、単価が上がっていく要因の一つになっています。
温度が上がりにくい、伸びる快適な素材、アームカットなどの工夫で差別化を続けます。
シェアが伸びているのは、お客さんの病院が掃除や洗濯のプロではないことで、洗濯ノウハウが病院にはないため、洗濯を単に業者に外注する場合と、ナガイレーベンに任せる場合とはコストが違ってくるのです。当然、ナガイレーベンの方が安く洗濯できるのです。それは様々な工夫が積み上がった結果です。汚れが落ちやすい工夫、仕上げ工程などに秘密があるのです。コツは人間ではなく機械にやらせることらしいのですが、おっと、これ以上は教えてくれません。何れにしても、縫製の職人も、洗濯業者も、どんどん淘汰されてしまって、残ったところは、どこも強者。実力者なのです。この人たちを束ねるナガイレーベンは世界的にみても強いはずです。国際競争力が自然と備わってしまったのです!
国内生産のおかげで在庫を持たずすぐに届けることが可能に
在庫をできるだけ持たず、生産してすぐに届ける。海外で安い人件費を使って輸入すると船便で数週間もかかります。それでは小まめな顧客の発注に対応できません。
国内生産5割、海外生産5割というバランスよい生産体制をナガイレーベンは取っています。
他のアパレルは薄利多売で量産効果を狙いますので1万枚が最低ロットですが、ナガイレーベンは1枚が最低ロットなのです。
使い捨てから洗濯減菌タイプへの置き換えで成長
ナース向け、ドクター向けで圧倒的なシェアを持つ同社ですが、今は、新しい領域でシェアを奪っています。一つは、患者向けの白衣です。例えば手術着です。これは使い捨てが今はメインとなっています。使い捨ては感染症が怖いからそうしているのですが、感染の危険がない手術(全体の90%以上が当てはまる)では経済的に割高になります。
それでも使い捨てが使われる理由は、ナースの負担が軽いからです。洗濯滅菌の場合、回収するのはナースになります。そのため、ナガイレーベンでは、回収を業者にさせることで、徐々に使い捨てから洗濯滅菌タイプへの置き換えを狙っています。洗濯滅菌は使い捨てよりも安く提供できるため、普及し始めており、同社のこの数年の業績を牽引しています。
病院から出るゴミに細菌混入し自治体の悩みとなっています。ゴミ削減したい自治体や病院の現場のニーズにもあっているので、エコの観点からも、今後は使い捨て市場を奪っていくと思います。
ドクター・ナースの白衣は、洗濯工場に滅菌機能を付加しないと回収できません。そのため、滅菌器具の設備投資が洗濯業者の負担なっています。滅菌設備を入れる洗濯業者が増えると同社の手術着はもっと普及するはずです。
海外は、まだまだ成果は出ていませんが、韓国と台湾で出荷額は2億円強になっています。
また、近年は介護関係の白衣も伸びています。看護士、介護士の数も増えていくので同社もモデストながら一桁中盤の年率の成長を続けていくと考えています。
理論株価は今の株価の1.5倍以上の3000円!
赤字にはなりにくい体質です。財務は盤石。株価の変動率もインデックス並みに低いのです。ROE10%のディフェンシブ・グロース株として、理論株価は1.5倍以上の3000円の値はあると思います。
=衰退産業とレッテルを貼られた業界の方々へ=
1990年から6分の1になってしまった繊維関連の事業所数。日本の輸出企業たち。
戦後1ドル360円の時代から 200円を切る円高になり、100円という円高に見舞われました。
長期にわたる一方的な円高。そして貿易摩擦。厳しい環境。厳しい困難の中で、真の競争力は育つのです。
例えば、日本の自動車産業は、ずっと、ずっと、ずっと円高でした。逆境の中でグローバル企業に脱皮したのです。
自らの人生を運命論に委ねてはなりません。人生は運命論で語ることはできません。運命論は評論家や頭のよい人々に任せて右から左へと聞き流すことです。
これから価格が半分になろうとも、需要が半分になろうとも、成長することは可能なのです。成熟する市場などない。
運命を切り開くのは、市場の大きさではなく、あなたの心の目です。市場の深さです。経営者であれば社員一人一人に向かい合う覚悟。社員であれば顧客一人一人と向かい合う覚悟。私たちは、誰もが、覚悟を持って各々の人生を切り開けるはずです。それはナガイレーベンが証明したことです。
彼らのように、市場の「広さ」ではなく「深さ」を信じましょう。
今、この瞬間、困難に向かい合っている日本の零細企業の皆様。あなた方も、きっと、未来のナガイレーベン株式会社になれるはずです。希望を持ちましょう。自分自身を信じましょう。
深く考えた分だけ、顧客に寄り添った分だけ、自らの競争力や収益力は高くなります。
これは精神論ではありません。事実なんです。困難を乗り越えた分だけ、企業は強くなる。苦難の分だけ、よい商品が提供できる。楽して儲けても、将来は切り開けない。それはあぶく銭です。宝くじに当たった人の末路と同じです。
ギリギリの苦労を乗り越えるからこそ、真の実力が備わり、自らの将来が大きく開けるのです。
この連載は、10年で10倍を目指す個人のための資産運用メルマガ『山本潤の超成長株投資の真髄』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、週2回のメルマガの他、無料期間終了後には会員専用ページでさらに詳しい銘柄分析や、資産10倍を目指すポートフォリオの提案と売買アドバイスもご覧いただけます。