しばらく落ち着きを見せていた「iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)」の制度に関して、2つのニュースが4月後半にあいついで新聞に踊りました。1つは「iDeCoが銀行の窓口でも販売される」、もう1つは「iDeCo、投資信託販売にシフト」といった切り口のニュースです。
どちらも、「iDeCo」の今後を考えると重要なニュースなのですが、解説や見出しがちょっと間違っていて誤解を招いてしまっているようです。
そこで、今回はこの2つのニュースについて解説をしてみたいと思います。
「iDeCo」が銀行で「窓販」できる時代に!?
運用商品説明の機会が増えるのは個人にもメリット
まず、「iDeCo」を銀行の窓口で販売できるようになった、というニュースです。「へー、今まで窓口で売ってなかったんだ」と思った人も多かったと思いますが、これは半分誤解です。
もともと法律は、銀行などの「iDeCo」の窓口販売(いわゆる窓販)を禁止していません。通常の投資信託や保険商品を窓販できるように、「iDeCo」も窓販することができます。
今でも、加入申込書の受付レベルであれば対応している金融機関も多く、イオン銀行やりそな銀行などは窓口での相談対応をアピールポイントにしています。
ただし、法律では「運用商品の説明」について、通常の投資信託の販売担当者とは別に、「iDeCo」の専任担当者を配置しなければならない、となっており 、これが地味に金融機関を悩ませてきました。
銀行にとっては、ドル箱のひとつとなった投資信託の窓販の担当者を削って、「iDeCo」の商品説明担当者に振り向けるとビジネスの効率が悪くなります。そのため金融機関は、「iDeCo」担当者は本店や大規模店舗のみに置く、あるいは商品説明はウェブサイトとコールセンターに丸ごとゆだねて店舗では説明しない、という戦略を長く採用してきました。
ところが、「iDeCo」の普及が加速し始めた昨今、顧客の関心も高まり、店頭での商品説明の必要性が増えてきています。金融機関側にも、なんとか現場での説明を行うことで、「iDeCoに興味は持ったがネットだけでは十分に理解できない人」や「そもそもiDeCoへの関心が低い人」などの加入につなげたい、というニーズがあります。
そこで、一定の規制は残しつつも「運用商品説明担当者の兼務禁止」については規制緩和しよう、というのが今回の「iDeCo窓販解禁」の正確な意味になります。
規制緩和で「iDeCo」の商品説明をしやすくすることは、金融機関にとっても個人にとっても一定のメリットがあるわけです。なお、ニュースはすぐにでも解禁という雰囲気でしたが、実際にスタートするのはもう少し先になりそうです。 厚生労働省では審議会(社会保障審議会企業年金部会)を4月20日に開催し、委員の了承を得て、現在実施の準備を進めています。
厚生労働省の資料によれば、規制緩和で解禁されるのは下記の3項目だそうです。
・運用商品の提示及び情報提供
・加入者に運用商品のパンフレットを示し、併せてその選定理由を説明すること
・加入者に運用商品のパンフレットを示し、運用商品の内容について詳細な説明を行うこと
また同時に、金融機関に対して「社内研修などの体制整備」、「特定の運用商品の推奨の禁止」、「特定の運用商品のみの情報提供の禁止(利益相反行為の禁止)」、「運用商品リストの開示」、「説明前の職員の立場の確認」などを求めることを、兼務規制の緩和のための要件としています。
規制緩和で便利になる裏に潜む注意点
金融機関は本当に客の利益を優先するか?
今回の規制緩和が実現すれば、加入する個人にとっても、金融機関にとっても、一定のメリットがあるのは前述のとおりですが、注意点もあります。金融機関が、本当に加入者の利益となる商品やプランを薦めてくるとは限らない、ということです。
忠実義務、つまり「客の利益が金融機関の利益より優先されなければならない」と法律が定めたところで、なかなか自分たちのビジネス上の利益を後回しにできないのが金融機関の実情です。すでに行われている投資信託の窓販では、短期的な回転売買や高い手数料の投信販売に偏っていたことは否定できません(その反省から、つみたてNISAが誕生したともいえます)。
そのような事態にはなってほしくないものですが、「iDeCo」も同様に、“窓口の営業”で「他社より割高な口座管理手数料」のプランが販売されたり、「特定の商品の推奨」ではなくても「全部の投資信託の信託報酬が割高」なプランを押し売りされたりする可能性はあります。各社は営業力の強化だけではなく、今より魅力的なiDeCoプランの提供にも注力してほしいところです。
手続き時の書類の煩雑さ、制度の複雑さが「iDeCo」加入の大きなハードルとなっているのは間違いありませんので、窓口での説明の拡大が、「iDeCo」の健全な普及に役立つものとなってほしいと思います。
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⇒iDeCoに入るべき人、入らないほうがいい人は? 積極的にiDeCoを利用すると得をする3つのタイプと、iDeCoに入らないほうがいい4つのケースを紹介!
「iDeCo」で加入者が“何も選ばない”と
金融機関が決めた商品が自動的に購入される
もう1つの「iDeCo、投資信託販売にシフト」というニュースですが、これはこの5月以降、「指定運用方法」がスタートすることに関するものです。「指定運用方法」とは、簡単にいえば「iDeCoで何を買うかという運用指図を加入者がしていない場合に、一定の手続きに従って自動的に買い付けられることになる運用商品」のことです(今までは「デフォルト商品」と呼ばれていました) 。
「iDeCo」では、基本的に加入申し込み時点で何を買い付けるかという運用指図書も提出してもらうことが多いのですが、もしこれが未提出の場合であっても加入の手続きは進めることができます。最初の掛金の納付は掛金拠出ができるようになった翌月なので、加入者は口座を開設した後で、専用ウェブサイトにログインして運用指図を行ってもいいわけです。
しかし、口座開設後も運用を指図しない人もいるので、そのような場合に掛金を充てる金融商品として、金融機関が定期預金等の安全性の高い商品を設定して、加入者本人が買い付けしたことにするのが一般的でした。ただ、これは法律に則ったものではなかったため、「本人の自己責任で運用指図した」とみなしていいのか、という問題がありました。
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⇒【iDeCo(個人型確定拠出年金)おすすめ比較】「定期預金の金利」を比較して選ぶ!定期預金で運用したい人におすすめなiDeCo金融機関
そこできちんと法律で「指定運用方法」というルールを設け、これに則った場合、「加入者が自分で運用指図をしたものとみなす」、と決めたのです。
具体的には以下のような手順です。まずは最初の掛金納付日から3カ月のあいだ、「iDeCo」に入れたお金(掛金)は現金扱い(当座預金)のような形でプールされ、本人の運用指図を待ちます。次に通知が行われ、「このままでいくと指定運用方法で商品の買い付けが行われる」ことが連絡されます。さらに2週間を経過しても何も運用指図がされない場合、指定運用方法として金融機関(運営管理機関)が定めた金融商品を自動的に買い付けし、それは加入者が自己責任で運用指図をしたものとみなされます(実際には「3カ月プラスアルファ」「2週間プラスアルファ」の日数を金融機関ごとに定めますのでもっと猶予が取られる場合もあります)。
「iDeCo」の実施主体である国民年金基金連合会は、各金融機関(運営管理機関)が指定運用方法を決定した場合は、ウェブサイトで公開しており、各社の取り組み状況をチェックできます。
4月24日時点の情報ではさわかみ投信のiDeCoプランは何も運用指図がされなかった場合の指定運用方法を「さわかみファンド」としていますが、多くの金融機関では、「定期預金」を設定しています。たとえばSBI証券も今のところ「あおぞらDC定期(1年)」という定期預金です。
指定運用方法が「定期預金」の金融機関では、「本人の運用指図がない場合はあえてリスク運用を押しつけず、安定運用を選択したものとする」という判断をしたことになります。
逆に指定運用方法を「投資信託」とした金融機関では、「運用指図がない場合は、中長期的には期待リターンが高くなると思われる投資信託を保有したものとしておく」という判断を金融機関サイドが行ったことになります。
金融商品の販売においては、本人が理解して初めてリスク性商品の購入が行われるのが原則でした。「iDeCo」では、指定運用方法が投資信託であることをあらかじめ説明しておくとはいえ、未指図の場合、投資信託の理解がない人が投資信託を購入するケースもありうる、という仕組みが採用されるというのが大きな変化です 。
りそな銀行の指定運用方法は「ターゲットデートファンド」に!
デフォルト商品を「投信」にする金融機関の狙いと注意点とは?
さて、この指定運用方法について、新聞記事に登場していたのはさわかみ投信ではなく、りそな銀行でした。りそな銀行が、指定運用方法に投資信託、しかもターゲットデートファンドを採用したiDeCoプランを設定すると発表し(※)、注目が集まっているのです。
※りそな銀行のプレスリリース(4月24日・新プランは5月3日に受付開始)
「ターゲットデートファンド」(ターゲットイヤー型投信)とは、運用のゴールである年限が設定され、ゴールまでの時間が長いうちはリスクを高めにとり期待リターンを高く設定した運用を、ゴールに近づいてきたらリスクを抑えて大きな値下がりを回避する運用を行う投資信託で、アメリカなどではメジャーな投資商品のひとつです。個人が自分の年齢を考えながらリスクの高さを調整するのは大変ですが、この商品を保有するだけで、20~40歳代は積極的に収益確保を目指し、50歳代に入ると徐々にリスクを抑えた運用に切り替え、引退年齢を迎えることができます。
りそな銀行はあえて指定運用方法に投資信託を掲げることにより、「iDeCoは預金ではなく“投資”が基本的な(かつ合理的に考えて有利な)活用方法である」というメッセージを発しているわけです。
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⇒iDeCoでは投資信託を買うべき3つの理由とは?節税効果だけでなく、長期の積立メリットで得する投資初心者必見の正しい運用商品の選び方を伝授!
ただし、金融機関が指定運用方法を設定してもしなくても、本人から運用指図書を提出してもらうか、自分でログインして運用指図をしてもらうのが基本、というのは変わらないと思います。ここまで説明してきたとおり、指定運用方法は「強制される商品」ではなく「自分が運用の指図をしなかったときに買うことになる商品」でしかないからです。
それでもなお、指定運用方法として投資信託を設定し、利用者に投資に対する強いメッセージを打ち出す金融機関が増えてくるのかが注目されます。
また、その指定運用方法でどんな投資信託をチョイスしてくるかもチェックするべきでしょう。たとえばコスト面で見ると、りそな銀行の設定したターゲットデートファンドは信託報酬が年0.5%を切っていますが 、さわかみ投信が設定した「さわかみファンド」は年1.0%を超えます。もちろん運用方針や、成績がインデックスに負けていないかなども気になるポイントです。
りそな銀行やさわかみ投信に追随して、指定運用方法に投資信託を設定する金融機関がさらに現れるかは未知数ですが、「iDeCo」への加入を考えている人、あるいはすでに加入している人にとっても決して無関係ではありません。各金融機関の今後の動向に注意を払いたいところです 。
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1995年株式会社企業年金研究所入社後、FP総研を経て独立。ファイナンシャル・プランナー(2級FP技能士、AFP)、1級DCプランナー(企業年金総合プランナー)、消費生活アドバイザー。若いうちから老後に備える重要性を訴え、投資教育、金銭教育、企業年金知識、公的年金知識の啓発について執筆・講演を中心に活動を行っている。新刊『読んだら必ず「もっと早く教えてくれよ」と叫ぶお金の増やし方』(日経BP社)が好評発売中。
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