外資系投資顧問でファンドマネジャー歴20年の山本潤氏による、10年で10倍を目指す成長株探しの第7弾。今回は、ZOZO(3092)を取り上げます。
株価は高値から3分の1に。復活には2年間かかる?
★★☆☆☆(今年1年間5段階中2 5が最高評価)
衣料品ネット通販『ZOZOTOWN』運営する株式会社ZOZO(3092)の投資判断は今後1年間で「弱気」です。配当がこの10年で40倍となるなど、日本の急成長株の代表でした。
1月31日に発表された第三四半期の決算で通期の業績を下方修正。上場来初めての減益・減配見通しを発表しました。株価も昨年7月の4875円をピークにしてさえません。2月8日は1670円と年初来安値をつけました。ピークからは3分の1の株価水準です。
わたしにとってZOZOは長年にわたって大儲けさせてくれた株です。だからこそ、思い入れも強いのですが、現状は社会の構造変化の波がキツく、業績を立て直すには2年程度はかかると考えています。
いや、経営手腕のある前澤さんのことだから、2年かけないで1年で復活する可能性もあるかもしれません。だから「弱気」の期間も限定1年とさせていただきました。
ZOZOの問題(1) 正社員と臨時社員の割合
わたしが一番大きな課題である、と考えているのは、同社の臨時社員数の多さです。正社員およそ1000人に対して臨時社員およそ2000人換算との比率は1:2です。かつて、ファーストリテイリング(9983)の1990年代がそうでした。いや、ファーストリテイリングはもっと激しい会社で、20年前、正社員と臨時社員の比率は1:7でした。ユニクロの柳井さんは、それではいけない、人出が確保できないばかりか、サービスの質が担保できない、成長ができなくなる、ということで、その比率を10年ほど前から1:1にしています。前期を除けば過去5年間でみれば、正社員の方が臨時社員よりも多い会社になっています。積極的にパートの正社員化を進めてきました。
それではZOZOは、ECサイトとして、これからサービスの質を高めるに当たって、どこに手を入れていくのか?? それらを考えたとき、ZOZOの前澤さんだったら、「企業というのはやっぱり人がすべてなんだな」ということにずっと前から気がついていると思います。絶対にパートの正社員化に手をいれてくるはずですね。そうしなければ会社が持たないからです。ECサイトだからこそ、ZOZOスーツのようなテクノロジーや効率の追求だけでは不十分なのです。テクノロジーに加えた「プラス・アルファ」も必要なのです。
試算すれば、2000人の臨時社員をすべて正社員にすると、コストは50億円ほどアップするでしょう。一気にすれば収益性を落としますので、段階的にするでしょう。それが冒頭の2年というわたしなりの試算です。
伸びる企業は基本的に社員を大切にしますから、多分、そうなるはずです。そうしなかったら、そもそも会社自体の有機的な発展が阻害されかねないと思うのですが...
この50億円は長期的にはZOZOにとってはとても安いものになるはずですが、2年という短期では業績の足踏み要因になりかねないものです。
ZOZOの問題(2)物流費の法外の安さ
ZOZOに限らず、ECの多くが日本で苦戦しています。最大の要因は配当費・運送費の値上げです。
そもそも、沿岸部に人口の集中している日本においては、流通コストを最適化するためには、むしろ、卸売を上手く多面的に使うのが正しい方法論です。高速道路や燃料が安い米国とは日本の事情が大きく違うからです。卸売業者との協業が最適なコスト構造になるのが日本の特徴で、リアル店舗の圧倒的不利がない国なのです。EC化が日本では、あまり進まないのはこのためです。
そして、まだ宅急便の値上げは続きます。むしろ、これからが本格的な値上げが始まると思うのです。今後も人手不足を背景に配送費用は上がっていきます。いままでが安すぎただけです。今後2-3年間(場合によっては10年間)は配送費用は上がり続けると考えなければならないでしょう。
深刻化する人手不足
ちなみに、ヤマトHD(9064)の社員一人当たりの利益は20万円以下です。ZOZOは社員一人当たり利益が1000万円以上と50倍を超える格差があります。
ECのインフラを担う運送会社がタダ働きで、ECだけが高収益という構造があります。それを支える運送会社は参入障壁が低く競争が厳しい。
ECはプラットフォームビジネス(winner-take-all型)であり、限られたわずかな業者しか事業が成り立たないけれども、認知されたトップ・プラットフォーマーになれば、その認知度が参入障壁になり、必ず儲かるようになります。いわば、シェアをとればそれが参入障壁になる、ということです。メルカリ(4385)が莫大な広告費用を米国でかけるのも認知度を高めるためです。リアル店舗は各都市にあってもよいのですが、プラットフォームは各ジャンルでひとつで事足りるのです。
ここで、みなさまに質問です。
Q: どちらのサービスがないのがより困りますか?
A:クロネコヤマトの宅急便
B:ZOZO
どちらかひとつを選ぶとしたら、です。わたしならば、Aのヤマトを選びますね。
社会インフラを支える宅配業者がなければ、そもそもECは成り立ちません。社会の土台を担う会社は社会にはなくてはならない存在です。一方で、ECは品揃えや便利さからあった方が便利な会社です。
要は、すでに日本は安い人件費で回せる国ではなくなりつつあります。宅配業界や臨時社員に頼らないと回らないビジネスモデルはECに限らず、すでに見直しの時期にきているのかもしれません。たとえば、外食や小売の多くが深夜営業や正月営業や出店をあきらめましたね。
平均的な一人当たりの利益が運送屋さんが10万円では安すぎるのです。これをせめて従業員一人当たりの営業益が100万円程度にしようとすれば、宅急便はいまの倍程度のサービス値段が適正だということになります。ZOZOにとっては100億円以上のコストアップになります。時給のアルバイトもいままでのように800円では人が集められません。時給は1500円程度がギリギリの生活防衛給与だと思います。社会のトレンドは人件費アップの方向で進むはずです。
このことがずっと前からわかっているユニクロ(9983)や楽天(4755)などはすでに手を打ち終わっています。もちろん、臨時社員の比率は大きく下げています。楽天IRによれば正社員比率は7割を超えています。正社員比率は9割。楽天はパートやアリバイトや臨時社員にあまり頼らない経営をしているのです。楽天はなんと自前の物流網まで構築しています。
ZOZOより何倍も規模の大きな楽天だからできることではありますが...。いや、規模の問題ではないですね。ZOZOよりもずっと規模の小さな白鳩(3192)でさえ、バイトではなくて、地元京都の社員が本社で箱詰めしています。白鳩も(でさえ、といえば失礼かもしれませんが)正社員の方が臨時社員よりも多いのです。ZOZOの現状は持続可能な収益構造ではないと考えざるを得ません。
前年比も前四半期でみてもよいところが全くない決算
ZOZOの決算内容はひどいものでした。現金の急減、借金の急増、各種回転率の悪化。四半期ごとに数字をならべてもダメ、前年対比でならべてもダメ、ということです。PBブランドが想定以下の伸び。そして、新サービスのZOZOARIGATOはブランドの離反を招きました。
前澤社長の挑戦は始まったばかり
さあ、非凡な企業家である前澤さんの挑戦は始まったばかりです。彼が次に何をするのか。
わたしは意地悪で2年はかかると書きましたが、わたしの予想をよい意味で裏切ってほしいのです。
みなでZOZOと前澤さんを応援しましょう。 そして、彼らの次の一手に注目していきましょう。
付録 経営者としての資質
あなたは上場企業の社長です。
Q:社長室は豪華にする
Q:プライベートジェットは必要だ(数々の成金オーナーのように)
Q:応接間に何十億円の絵画を飾りたい(数々の成金オーナーのように)
Q:役員専用のエレベーターやトイレや食堂を本社に設置する(かつてのNECのように)
Q:年代物のワインを飲むパーティを開催する(多くの社長がやっている)
Q:趣味は当然、ゴルフである
Q:一人の社員にバイトを2人つかせて3人分の仕事をさせると得である
Q:業績が悪くても役員報酬は1億円以上でよい
Q:業績が悪いときはリストラしてコストを下げればよい
すべてNoであれば、あなたは裸の王様にはならないでしょう...。 はあるのか?
この連載は、10年で10倍を目指す個人のための資産運用メルマガ『山本潤の超成長株投資の真髄』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、週2回のメルマガの他、会員専用ページではさらに詳しい銘柄分析や、資産10倍を目指すポートフォリオの提案と売買アドバイスもご覧いただけます。