外資系投資顧問でファンドマネジャー歴20年の山本潤氏による、10年で10倍を目指す成長株探しの第7弾。今回は、イソライト工業(5358) を取り上げます。
高収益のAES(生体溶解性繊維)への転換中で利益率が改善
★★★★★ (5段階中5 5が最高評価)
イソライト工業は、鉄鋼炉やガラス炉や電子部品やセラミック製品等の焼成炉向けに断熱材を製造販売しています。これまでは主にRCF(セラミックファイバー)が焼成炉の内部やセッターや外壁、内壁、天井等に断熱材として使われていました。外気が炉の中の温度に影響を与えることを防ぎます。また、炉内の温度を管理するために断熱材が使われます。
しかし、そこへ規制が入ります。高い温度になると非結晶質のRCFが一部結晶化することが知られ、生体内で溶解しなくなります。ファイバーの粉塵を吸い込むことで人体への影響があると懸念されたのです。そのため、2015年11月からRCFは規制されたのです。
これにより、炉向けの断熱材が既存のRCF(リフラクトリーセラミックファイバー)からAES(生体溶解性繊維)へ変わったことの恩恵を受けています。同社がトップシェアを誇るAES(生体溶解性繊維)はRCFの1.3倍の平均価格であり、同社の製品のミックスが改善中です。これにより、同社の平均製品価格(ASP)が上昇しました。
(ASP = Avarage Selling Price)
近年のイソライト工業の利益率の改善と高い利益率の水準にはミックスの良化というはっきりとした背景があるのです。限界利益率は4割台へ改善。ROEやOPMも20%弱あり、イソライト工業は長期の低迷を脱し、いまや高収益企業となったのです。(※限界利益率=売上高から変動費だけを差し引いた利益のことで、売上から得られる利益の限界値)
5年前、RCFの比率がほぼ大半でAESはほぼゼロでした。いまは4割ほどがAESという人体に優しい断熱材になってきました。同社によれば、足元、RCFとAESの比率は拮抗しているとのこと。今後の5年を見ると、さらにRCFの比率が落ちて、AESの比率が上がっていくと考えてよかろうというのが同社の見立てです。わたしも会社の見方に同意します。
ところが、さらに高付加価値の製品が今後、同社を変貌させるのです。
さらに高収益商品の需要拡大で利益も拡大へ
PCWという高付加価値品が需要が足元で旺盛です。24時間フル操業で注文に応じ切れません。
PCWというのは、アルミナファイバーと呼ばれ、ムライト組成の繊維で、生分解性をもつだけでなく、1600度を超える高温にも耐えられる素材です。一方、AESは1600度が限度です。
現在、1700-1800度という高温のプロセスが開発されています。たとえば、リチウムイオン二次電池の電極の焼成炉です。「メーカーによっては1700度で焼成している」とのこと。確かに、1800度や2000度を超える温度で焼成する新しい負極材(Si)なども登場してきました。また、固体電解質の酸化物タイプは電解質まで焼成しなければならない場合があり、様々な正極と負極と電解質がこれから試されるEV向けリチウムイオン電池向けの新設備ではPCWが使われる場合もありそうです。規制対象外であることとAESでは対応できない高温でも対応できることからPCWが増えつつあるのです。
それだけではありません。LED基盤などで普及期にある窒化アルミ基板の製造では窒化アルミが炉内の不純物(酸化物)と反応やすく、熱伝導率などの特性を落としてしまいます。そこで、反応を抑えるために還元雰囲気でかなりの高温(1800度)で焼くとの文献があります。そういうところでは、PCWが使われている可能性があると思います。
これはPCWの話ではないですが、たとえば、世界でスマホは14億台売れていますが、筐体がアルミからガラスへと置き換わりつつあります(アルミは電波を通しにくい)。そこで、落としても割れないガラスを大量につくるのですが、ガラス製品は炉が必要です。
車の自動運転となれば、距離を正確に測るため、温度変化に強いガラス製の大きなレンズを搭載しなければなりません。レンズが温度変化に弱いと車との距離を間違えてしまうため、自動運転では、よいレンズを使うことになるからです。リチウムイオン二次電池の固体電解質も酸化物系は炉で作ることになります。自動運転が普及すれば高品質の非球面レンズが今後大量に製造されることになります。
たまたま、デジタルカメラが失速し、いま、レンズの炉は余っていたのですが、スマホのガラス筐体が普及したため、現状、ガラス炉も足りなくなっています。半導体は落ちていると思われがちですが、古いタイプのi線のステッパーなどは足元も需要が旺盛なのです。意外でしょうか。
イソライト工業のIRの方と話した時のことです。「半導体関連と見られて株価が下落しているが、市場はまったくわかっていない!!」という意見をIRご担当者から聞きました。
わたしも訪問前は、ただPERが安いだけ。一応、行っておくかレベルであまり準備せずに訪問したので大恥をかいてしまったのです。思い込みとか先入観はおそろしいですね。
配当増配基調にも関わらず株価下落で市場とギャップ
中期経営計画経で3年で32億円の投資を行いますが、半分以上はPCWのラインへの投資です。今後、収益性の高いと見られるPCWが拡大していくシナリオが描けます。単価10倍のインパクトは大きいため、RCFからAESやPCWが増えると同社の利益も増えるだろうと読んでいます。
昨年に比べて労務費や材料費や運送費が上がったことや昨年の一過性の利益の反落で今期予想は減益ですが、業績の基調は強いことが確認できました。
株価は大きく下落している上に、配当も増配基調であり、PERの水準も6倍台と低位であることから、中長期の業績と市場とのギャップが大きいと感じました。
この連載は、10年で10倍を目指す個人のための資産運用メルマガ『山本潤の超成長株投資の真髄』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、週2回のメルマガの他、会員専用ページでは今回のイソライト工業(5358)のさらに詳しい分析や、資産10倍を目指すポートフォリオの提案と売買アドバイスもご覧いただけます。