外資系投資顧問でファンドマネジャー歴20年の山本潤氏による、10年で10倍を目指す成長株探しの第7弾。今回は、キーエンス(6861)を取り上げます。
10年で10倍になったキーエンスはなぜ買えたのか?
★★★★☆ (5段階中4 5が最高評価)
わたしの20年間のファンドマネジャーの成績を支えた企業のひとつが株式会社キーエンス(6861)です。 株価はリーマンショック後の安値から10年で10倍になりました。
他のファンドマネジャー仲間とキーエンスの話になるとき、「すごい会社だけで割高だよね」というファンドマネジャーがほとんどでした。 保有できたファンドマネジャーはほんの一握りでした。
では、わたしはなぜ、他のマネジャーが保有できなかった「割高」キーエンスを90年代から継続的に保有できたのでしょうか?
一件割高に見えて、実は激安株だった
キーエンスを敬遠する大多数の投資家があげるのはバリュエーション(割安さ)の「高さ」です。
単にPER(株価収益率 株価÷1株利益)が平均よりも高い、というだけです。 たしかに、26倍の予想PERは少し高く見えます。 市場平均は10倍台前半なのですから。
それでも、わたしはキーエンスを「永遠の買い」と考えています。 理由は単純です。
1)製品に対する潜在的な需要が強く、
2)代替されるものの価値が上昇しているからです。
同社のサービスは、センサー等の工場ラインへの提案によるものです。 つまり、FA関連。自動化・省人化の設備投資関連です。
- 1)について -
人手を使わないでセンサーで検査ができれば工場の人件費が下がります。 キーエンスが置き換えるのは基本的には非効率な人や機械やシステムです。 人を雇うと年間で数百万円の人件費がかかります。 それを自動化したいという経営ニーズは膨大です。 このように膨大なニーズがある分野を手がけていること
- 2)について -
ところがアジア等の人件費を見れば分かる通り、人の値段は毎年上がっています。 わたしが保有をしてきたのは、人件費が下がっている日本という逆風下で業績を伸ばした企業が、 人件費が上がりまくる海外で同じ事業をしたら指数関数的に業績が伸びるはずだという確信でした。 元々キーエンスは国内売上が大半でしたが、この20年は、海外売上を伸ばそうとしていたからです。
自らが置き換えるモノの価値がずっと上がり続けるなら、自らが販売するモノの価値もそれに比例して上がり続ける。 それがもっとも大事な経営者の視点です。
90年代に30%台であったキーエンスの営業利益率は、どんどん上昇していきます。いまは、50%を超え始めました。 なぜでしょうか。
需要が膨大であるのに、それは置き換えている「人」の価格が今日も明日も上がり続けているからです。
数字は未来思考で見なければいけない
PERやPBRという「止まった数字」で頭をいっぱいにするとファンドマネジャーはすぐに首になります。 数字は未来思考で動かす訓練が必要なのです。 財務分析は数字を割ったり足したりするものではありません! 財務分析は、数字を動かすためにするものです。
たとえば、製品価格の年上昇率は「動く数字」です。 価格は何年後に何倍という計算をすることでファンドマネジャーはアルファを生み出すのです。 今回は、実際に、これをやってみましょう。
株式投資におけるもっとも重要な問いかけは「この会社は伸びるのか?」
キーエンスは伸びるのか? 「伸びるのか?」という問いかけは、投資においてもっとも重要な問いかけです。 今回は、この問いについて考えましょう。
=キーエンスの国内販売の論点=
国内成長力はどれほどでしょうか? 彼らの国内取引対象企業は年間5万社です。なんとその内訳の99%が中小企業なのです(上場企業の取引先は2000社です) 、業種の偏りはあえてつくりませんでした。 半導体、液晶、商品、薬品、金属加工、樹脂加工、研究開発。特定の顧客への売上を排除してきました。 それは意思をもってそうしてきたのです。 もちろん、特定顧客へ人生を依存しては奴隷になってしまうからです。 だれだって奴隷なんてまっぴらですからね。 5万社の大半は中小企業。社員1人の工場まで徹底して営業します。
彼らの営業のやり方は独特です。 デュアルのテリトリー制度が特徴です。 デュアルというのは、二つ、つまり、地域と製品のふたつのテリトリーです。 大阪市北部ならば大阪市北部だけを担当します。 顕微鏡なら顕微鏡だけを担当します。 つまり、ひとり必殺。いま流行りのクロスセルは行わないのです(Cross Selling: 一人の営業がたくさんの商品を売る手法) 。
逆説的ですが、これが売上を伸ばすコツです。 キーエンスの人件費を見てみると、年収は2000万円を超えるのです。 それが払えるのは、一人がその数倍の売上をあげているからです。 売るものがひとつしかない。売れる地域もひとつしかない。売れないなら自分のせいです。 覚悟をもって売るのです。ですから、カタログをHPでダウンロードしたら電話がなります。 わたしもキーエンス製品のファンですから、カタログをダウンロードします。 そのとき、必ず、営業から電話がかかってきます。 わたしは結果責任の明確化という点では、もっと多くの企業がこのシステムを採用すべきだと考えています。
特定の商品を売れるのは1人だけ。その一人が食品も薬品も自動車という様々な顧客に共通な悩みを解決しようとする。 このシステムを構築するには、たくさんのプロダクトがあってはだめです。 世界には無数の製品がありますが、もっとも儲かり、もっとも売れるものを扱い、 ほとんどすべての製品は取り扱わないという強い意思が必要です。 連結社員数は6000人程度ですが、国内は2200人です。その半分が営業パーソンなのです。
長期にわたって製品単価、取引先、品揃えのすべてが伸びている
驚くべきことに、長期にわたり1)製品単価、2)取引先、3)品揃えがどれも長期で伸びています。 商品別には現在8個の事業がありますが、以前は5つの事業しかありませんでした。 前述のように人件費増加に合わせるように平均商品単価をあげているので、プロダクトミックスは絶えずよくなっています。 開拓余地は十分にあります。国内もいま空前の人手不足だからです。 そして、まだまだ、取引先あたりの売上も増やすことができます。
製造ラインの生産技術部としか取引していない顧客には、メンテナンス部へ営業すれば売上は伸ばせるでしょう。 営業パーソンは基本的に企業ではなく人と取引をします。 ある企業では、製造ラインのAさんと取引があるが、新しく入ったBさんとは取引がないという具合です。 Bさんに取引をしてもらうようにがんばれば売上は増えます。
商品ラインアップについても、もともと製造ラインが中心でしたが、 これからは、品質保証とか顕微鏡分野を開拓しています。 たとえば企画設計に3Dプリンタを紹介したり、FAを飛び越え、物流倉庫小売にバーコードリーダーを提案しています。 このように、「裾野」を広げ、同時に、商品を広げているのです。
8個の商品を基軸にしているので、技術的な話が必要なので、8人の営業パーソンががサポートします。 ひとつの商品をひとりの営業パーソンで。地域も限定。逃げ場がなく、毎日、開拓、開拓、開拓の日々です。 さて、アナリストとしては、業績に目処をつけなければなりません。しかも止まった数字ではなく、数字を動くものにしなければ ファンドマネジャーは首になるのでしたね。
この連載は、10年で10倍を目指す個人のための資産運用メルマガ『山本潤の超成長株投資の真髄』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、週2回のメルマガの他、会員専用ページではさらに詳しい銘柄分析や、資産10倍を目指すポートフォリオの提案と売買アドバイスもご覧いただけます。