トヨタ自動車の社外取締役を務める経済産業省OBが6月下旬に日立製作所の社外取も兼務する。トヨタでの冷遇を受け、日立に軸足を移す布石ともささやかれる。およそ3週間にわたり公開予定の特集『社外取「欺瞞のバブル」9400人の全序列』の#6では、日本を代表する超名門2社の兼務で、くすぶる「利益相反」リスクについて明らかにする。(経済ジャーナリスト 井上久男)
中核子会社に私財50億円を出資
長男を抜擢し「やりたい放題」
トヨタ自動車の豊田章男社長(66)は、2021年1月から事業を開始した、自動運転関連のソフトウエア開発などを進める子会社のウーブン・プラネット・ホールディングス(HD)に私財50億円を出資した。出資比率は18%程度とみられる。
さらにウーブン・プラネット・HD傘下にて、静岡県裾野市でのスマートシティーのプロジェクトなどを推進するウーブン・アルファの代表取締役に、16年に入社したばかりの長男、大輔氏(34)を抜擢した。
こうした動きに対し、トヨタ社内外からは「利益相反になるのではないか」といった指摘が出ている。
トヨタは現在、「ソフトウエアファースト」戦略を掲げて自動車のスマート化を加速させている。いわゆる「クルマのスマホ化」の推進であり、ウーブン・プラネット・HDはそれらを担う中核子会社。順調にいけば将来的に企業価値はトヨタ本体を追い抜く可能性がある。
グループ全体の経営戦略に対して決定権を持つ親会社の社長が、成長が確実視される子会社に個人的に投資すれば、濡れ手で粟のリターンを得やすくなる。しかも、16年に入社したばかりの息子を孫会社のトップに置いて意のままに操れる体制にしており、やりたい放題のようにも見えてしまう。
この章男氏の出資は有価証券報告書で報告されている。本来であれば、外部の視点で経営を監督する社外取締役が注意してもいいようなパターンだが、そのトヨタの社外取自体が今、「利益相反」と問われかねない兼職をしようとしている。
その社外取とは、18年6月からトヨタの社外取を務めている元経済産業事務次官の菅原郁郎氏(65)だ。菅原氏は今年6月22日に開催される日立製作所の定時株主総会で同社の社外取に選任される見通しで、日本を代表する巨大メーカー2社の社外取を兼務することになる。
日立では元経産事務次官の望月晴文氏(73)が社外取を退任するため、その後任となる形だ。
この兼任人事について、経産省幹部や同省OBは「利益相反になるかもしれない。どちらかの取締役は辞めるべきではないか」と指摘。省内上層部で話題になっているという。
次ページからは、トヨタと日立の社外取を兼務することで生じる深刻な利益相反リスクについて明らかにするとともに、そもそも2社兼務の遠因となったトヨタのガバナンスが抱える問題点について明らかにしていく。