特集『円安・金利高・インフレで明暗くっきり! 株価・給料・再編 5年後の業界地図』(全24回)の#9では、コロナ禍でわが世の春を謳歌した海運、巨額赤字に転落した鉄道や空運などを分析。明暗分かれた運輸セクターだが、今後5年間を考えると海運大手3社はバブル崩壊後の軟着陸、鉄道JR3社は最高益への挑戦がテーマとなる。隠れた重要テーマであるトラックドライバー不足を追い風とする意外な中堅企業も紹介する。(ダイヤモンド編集部 篭島裕亮)
日本郵船は7社目の「利益1兆円超え」
今後5年間は「軟着陸」がテーマに
「日本郵船の当期利益が1兆円を突破」「東日本旅客鉄道(JR東日本)やANAホールディングス(HD)が巨額の赤字に転落」――。
コロナ禍においては、同じ運輸セクターでも陸、海、空で明暗が分かれた。その中で日本株の主役となったのが海運セクターだ。日本郵船、商船三井、川崎汽船の大手3社の2022年3月期はそろって最高益を更新。
中でも、日本郵船の22年3月期の当期利益は1兆91億円となり、トヨタ自動車やソニーグループに続き、当期利益が1兆円を突破した7社目の日本企業となった。株価も20年の安値からは10倍以上に上昇した。
「補助金の恩恵や巣ごもり需要により、欧米で消費財や建材の需要が拡大。それに対して中国や北米で新型コロナウイルスの感染拡大によりトラックドライバーや港湾作業員が不足して、一時は米国の西海岸沖に100隻程度が滞留するほど港湾の処理能力が低下。需給が逼迫して、コンテナ船の運賃が急騰した結果、史上空前の利益が出た」(東海東京調査センターの金井健司アナリスト)
一方、JR東日本やANAHDは2期連続で赤字に転落。今期は黒字予想だが、コロナ前の利益には遠く及ばない状況だ。
では、今後5年間を考えたとき、株価や業績はどうなるのか。
例えば日本郵船の場合、予想PER(株価収益率)は2.2倍、配当利回りは11%水準。運賃市況の一服を織り込んでいるとはいえ、東証株価指数(TOPIX)のPER13倍と比較すると株価の割安感は強烈だ。これは市場がコンテナ船の運賃価格のピークアウトを予想していることの裏返しでもある。
JR東日本はコロナ前と比較すると、株価が30%程度下がっている。中期的に業績がピークを超えていくとするならば投資チャンスといえそうだが、再び最高益を狙う日は来るのか。
次ページではわが世の春を謳歌する海運の賞味期限や崩壊後の落ち込み度、復活を狙う鉄道、空運のアキレス腱を分析。気になる年収比較や株価データとともに、今後5年間はある事情により壊滅的な影響を受ける陸運の中で、強い追い風を受けて活躍する意外な中堅企業の具体名も紹介する。